「昔、この世界に光と闇が分かれて存在していた。  敵対する光と闇は絶えず戦争を起こして、その所為で世界はボロボロ。  作物は成熟する前に枯れ、川からは水が干上がって、そのままでは世界が崩壊する所までになってた」 言っとくけどさ、闇が一方的に悪いってことはなかったんだ、 とヴィルアが砂風で頬に貼りついた紙を指で除きながらカイトに言った。 「神々はその有様にいい加減痺れを切らして、  俺達ヒトに五つの剣を手渡し、和平を光と闇にもたらして戦争を止めた。  ま、ここら辺は今でも解明が進んでて、色々と違う見解もあるから…。  五つの剣は「聖なる五つの剣」と呼ばれてる。  闇の暗黙、光の光明、黄昏の黄昏、そして暗雲と夜明…最後の二つは“無”だ。  人知を超えた魔力と力を秘め、それを手にした者は絶大な力と知恵を授かる事が出来る…とされてる」 ただ、「聖なる五つの剣」は剣自体が心を持ち、正しい心を持った使い手を選ぶのだという。 選ばれた使い手は能力別に賢者や勇者といった“称号”を貰い、 世界で起こっている諍いを防ぐことに協力する。 平常時には「柱」と呼ばれる遺跡―三千年以上前の謎の建造物―に収められ、 強力な魔法陣で隠されている。 「剣自体に選ばれない限り、普通のヒトは絶対に見る事は出来ない、ってことさ」 ここ最近は「聖なる五つの剣」が活発に力を発揮しており、 世界に危機が訪れる出来事が起こるのかもしれない、と神は判断していた。 「で、その五つの剣に選ばれた四人の内、多大な活躍をした三人のことは「三大王家」って呼ぶんだ。  「三大王家」の子孫は恐らく三つの地方に分散してる。  ヴァーチュア帝国を治めるベルファス王家、  ウィデルス王国を治めるカラドリウス王家、  そして…唯一国を持たないファドリア家」 「五つの剣に対して四人?」 「夜明の剣だけは選ばれなかったらしい。  じゃあ質問、「三大王家」に選ばれなかった最後の一人はどうなったでしょう?」 ヴィルアが突然した難解な質問に、 カイトは数分間じっと黙りこくって考えてみたが、中々良い答えは見つからない。 頭を捻って奮闘するカイトの隣でヴィルアが地図を荷台にしまい、 野菜と卵を挟んだサンドイッチをカイトに手渡した。 綺麗な三角形に切られた、小麦と雑穀で出来たパンを食べながらヴィルアが「降参?」と聞いてきたので、 カイトは悔しい顔をしながら頷いてサンドイッチの包みを解いた。 「四人の内、最後の一人は―世界を裏切って邪悪な闇を従え、世界を壊そうとしたんだ。  間一髪!ってところでファドリアが自分共々ある地に封印し、  世界はとりあえず平穏を取り戻せた。  そうそう、「裏切り者のディグナイア」と「嘆きのファドリア」っていう呼び方がある」 「ちょっと待て…「嘆きのファドリア」ってどういう事だ?  ディグナイアを封印してくれたんだろう?何で「嘆き」なんだ?」 手早いことにヴィルアは三個目のサンドイッチを口に入れようとしていて、 カイトのした質問に閉口してしまった。 膝に広げられたハンカチの上にそれを置くと、遠くを見るような目で、 「ファドリアはディグナイアの事を本当に信頼していて、最後の最後まで彼を信じていた。 当時の文献によれば、封印をした時のファドリアは血の涙を流した…ともある。 その所為かどうか知らないが、「三大王家」の内ファドリア家だけは忌み嫌われてるんだ」 「そんなに苦労して封印してくれたのにな…」 「仕方が無い、仕方が無い。だからファドリア家は滅多な事では世間の前に現れないのさ」 話を締め括ると、ヴィルアはぱく、とサンドイッチを一口で口に含み、これまた素早く食べ終わった。 カイトはやっと二個目に移った頃だった。

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