爺様に案内されて入った部屋は、色も種類も形も様々な魔法用品が所狭しと置かれていた。 例えば今カイトが座っているふかふかの椅子は 何やら魔石が埋め込まれているらしく、背凭れによりかかると火花が散った。 ヴィルアが紅茶を飲んでいるカップは手を離せば宙に浮かぶソーサーに戻り、 すっと指を出せば再び手元に戻ってくる。 何度もここに来ているからか、ヴィルアはごく普通の物と同じように その陶器のカップを器用に使っていた。 よっこらせ、と(実際それ相応の歳だが)老人らしい声を出して ロッキングチェアに座った爺様はほっと息をついた。 座っている椅子があんまりにも不思議でついつい背凭れを凝視してしまうカイトに、 ヴィルアは小さく笑い、直ぐに真顔に戻った。 一瞬だったがそれを見て、カイトは恥ずかしくなり、 凭れないように背を縮めて爺様に向かい合う。 「さて、何から教えようかの。魔法、剣術、防御、それから…ああ、神力じゃな」 「あの、一度にあんまりたくさんは覚えられないと思うんですが」 「心配するに至らんぞ!  イシュロンの人間は、何かしらの魔法を生まれながらにして知っておる」 いとも簡単に言う様にカイトが思わず首を振ると、 爺様はロッキングチェアからすっと手を本棚の方へと向けた。 手がくるりと回転すると、本棚の引き出しから 片手で持つ為の小さな杖が浮遊しながら素早くカイトの前へと躍り出る。 右手で杖を持つと、無意識のうちに頭からするりと呪文が出てきたので、 カイトは(内心で)二度びっくりしてしまった。 「唱えてごらん。恐らく虹の魔法じゃろう」 「そんなまさか…。…イズィン!」 空中に大きな筆記体のlを描くように杖を振ると、 手の動きをなぞる様にきらきらと粒子が舞い、小さな白い花が散った。 その一連の動作が終わると、拍手を送りながら爺様は笑い、 ヴィルアは少しだけ目を見開いて驚いた。 自分の手や杖を不思議そうに見るカイトに、 いつの間に取り出したのか、パイプを咥えた爺様はにっこりと笑いかける。 「初めてにしては随分難しいのをやりおる!  流石はテスラの血を引くだけあって、関心関心」 「今の魔法は?」 「さて…。虹色の光に花とくれば風属性の回復魔法“フルヒール”のはずだがの」 カイトはフルヒール?と疑問符を浮かべて首をかしげた。 ゲームではそんな名前の魔法も技もない。 幻想世界の魔法はやはり自分が知っている物とは別物なのだ、と 改めてイシュロンの特異さを味わった。 隣で紅茶のカップをソーサーに戻しながら、 ヴィルアが鞄から一冊の魔道指南書を取り出しながらカイトに話しかけた。 「回復魔法第四番:“フルヒール”…風属性中級魔法さ。  その下位魔法“ブレスヒール”よりも難しいな」 「さよう、テスラは上級魔法“ハートフルヒール”を一発で唱えおった。  どうやらお主も『風』属性の持ち主のようじゃ。  親子で同じ属性を持つことはの、魔法の才能がある印でもある」 「じゃあ他の属性は?なにがあるんだ?」 「なに?これはいかんの、言っていなかったのか、ヴィルア」 爺様にちらりと視線を寄越されヴィルアは、テスラ王に弁解する時と同じように 肩をすくめて苦笑いを浮かべた。 どうやら流石の冷静な彼でも、尊ぶべき師匠である爺様には勝てないらしい、と カイトは脳内のメモに追加した。 他の煌びやかな魔法用品と同じように宙に浮かぶ幻球儀を手元へと手繰り寄せ、 爺様はそれをくるくると回し始める。 「この世界には炎、水、地、風、雷、光、闇、黄昏、氷、無の10の属性があるんじゃが。  まずはその属性魔法から話しておこうかの」

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