エルディ どこかで見たような、不思議な夢を見た。 そこは美しい緑色が沢山溢れる森の小道で、 俺はその小道をどこまでもどこまでも走り抜けていく。 走る度、この身体はとても軽くなり、 息切れでさえ楽しくなった。 そして、ふと、随分と前感じた胸騒ぎを、 もう一度、感じてしまった。 ああ、このまま、どこかへ行ってしまいたい! この身体が消えてしまうくらい、速く、遠く! どこか、知らないところへ! 目が覚めて、いつも通り、純白に包まれた自室を眺め、 俺は少しだけ疲れたように感じた。 俺の身体の時の流れ、 それの本流が随分前から濁っているからだろう。 息切れなどしないけれど、 胸を圧迫されたように、息苦しい。 かつて無邪気に笑えた頃とはもう、 何もかもが違う。 彼女は大樹に、俺は、人でなしになった。 共に笑いあう人全て失って、俺は今、 たった、ひとり。 寂しいときも辛いときも、涙は絶対に流れない。 いっぱい代償を払って、それで手に入れたのは、 俺を礎として成立する、不変の真実だけだった。 後悔なんて、したくない。 恐怖を抱かず、良心を持って生きていたい。 自分が信じた、たった一つの正義、 それを守りたい。 その願いが生み出した歪みが、俺の身体を蝕んだ。 あの一瞬、崖から飛び降り、海に沈んで見たあの一瞬が、 俺を“伝説”へと変えてしまった、から。 ********* 本当は健気で必死で闘った子供なのに、 飛び降り自殺未遂なんてさせてす ま な い ! 我が家のエルディはいつだって真実を見つめてる設定。 どんなに辛い真実でもその胸の内に抱いてしまう人。 No.243 - 2008/08/20(Wed) 22:47:08 ********* 途死 物語には必ず裏と、表とがあり、 それを解き明かすことを人は何より好む。 真実を見つけたいからか、 それとも、己の予想や想像が正しかったことを 裏付ける証拠が欲しいからか。 何れにせよ、 人間の真実への探究心には驚かされるばかりだ。 絵筆をパレットに置き、 硬く張り詰めた朝の空気を肺に流し込み、 男はそっと目を伏せた。 長く伸ばした前髪はその目元を覆い隠しており、 時折その金色からは湖畔の青に似た碧眼が見える。 若い男だった。 自身の上半身ほどあるキャンバスを前に、 考えたり躊躇すること等なく、 真っ直ぐに伸ばした腕で鮮やかな色を乗せていく。 手の振り方だけを見ると、 まるで指揮者か何かのようだった。 「嘆く光の、黄昏と、人の腹に溜まる闇」 すっとした体つきに似合わず、 幾分か若々しい声で男は何事をか呟く。 目は相変わらず髪に隠れて見えない。 「この筆で描くには重すぎて―、  この口で言うには深すぎる」 何かの詩を口ずさみながらも、 男は絵に色を載せていく。 始めに血のような赤、海の青、草木の緑、…。 「地獄と天国の境目に、生まれ落ちるは天使の子」 ふと、男は息をついた。 らしくもなく詩を口ずさみ、絵を無心で書いていたのだ。 自然と息も切れる。 「地獄とこの世の境目に、死んでいったのは囚人で、  天国とこの世の境目で、若い女が泣き叫ぶ」 うっすらと笑みが浮かぶ男と対照的に、 その唇からは不気味な言葉ばかりが零れ落ちた。 絵は口ずさむ詩に合わせることなく、 満月の下で咲き誇る花々の姿を表している。 「男が去って、女が別れて、取り残された青年は…」 男は、手を止めた。 二、三分ほど、男は黙っていた。 「異界の扉を潜り抜け、時の狭間へ逃げ去った」 ********* 絵を描く男と取り残された青年はエルディのことです。 男と女は想像に任せます。 「A Tale」のエルディはこんなイメージ。 No.262 - 2008/10/30(Thu) 19:18:27 ********* ふと思う 時間変動、世界位相、歴史改変、境界無視、 その他普通は起こらない異常事態を見張るのが俺の役目。 いつも同じことをし、 いつも同じように一日を終えることが何よりも大切だと言われた。 絶対に時間を変更されない人間が必要なのだと。 それが俺、だった。それだけの話だ。 拒否権はあったので、一度、 俺はその誘いを断ってまた自分だけの生活に戻り、 けれど、死の誘惑に負けてこの命を絶とうとした。 そこで、俺は初めて過去の追憶と対面する。 「生きたいのか」 ―俺は… 「生きたいはずだ」 ああ…生きたい、逝きたい、生きていたい、 「惨めな最後を遂げるなど、許さんぞ」 許さ…ない、か…そうか、お前が、許さない… 「顔を上げろ」 目を覚まし、もう一度、役目を担わないか、と問われた。 今度は二つ返事で引き受けた。 死に行った男、黄泉を見て還ってきた自分がこの先何を知るのか、 そんなことにさえ、もはや興味などなくなってしまった。 俺は、行きたい、無の境地に、行きたい。 何もなく、世界と自分が直結する瞬間というもの、 つまり「生誕」と「死亡」の瞬間に触れていたい。 そうして時折俺は思う。 俺は過去の追憶を見守る。 これは、他者の記憶だ。 それなら俺の死後は一体誰が俺の記憶を見る? 残される者が一番辛いというのは当然だ。 俺は結局取り残され、 今もこうして誰かが背中を押してくれるのをじっと待っている。 そして背中を押してくれるその人を、 俺はきっと、友に向けるものであり 恋人に向けるものである感情で、愛しているに違いない。 ********* 無意味な毎日を生きたくはないなーと思いつつ。 何か有意義なものがないと毎日死んだようなもんですよね、 ってことです。 No.266 - 2008/11/09(Sun) 16:17:51 ********* “別れ”とすれ違った どこをどう歩いたのかはよく覚えていない。 ただ漠然とした不安と、胸に抱えた 何かぐるぐるとした不可解な物にのみ従って、 ふらふらとあてもなく彷徨う。 そうして街並みを通り過ぎていると、 ふと、自分とはいったい何者なのかと疑問に思うことがある。 そしてその疑問に相応しい答えを見つけられずに 数時間は経った時だった。 「 」 人混みの中で、懐かしい名前を呼ばれた気がした。 呼ばれた名前は決して自分の物ではない。 それでも、やはりその声が呼んだのはきっと自分なのだと気付いた。 大勢が歩く歩道の途中で辺りを見回し、 声の持ち主を探そうとしたが、見つからない。 何故だか分からない。 分からないけれど、 その声に応えなければならないような気がして、 今直ぐにでもその人に会いたくなった。 聞いたこともない声の、見たこともない人だということは分かる。 それなのに、どこにも姿が見当たらない。 思わず、目の奥が鈍く痛んだ。 「    」 また声がすると、 今度は誰かの手が優しく頬に触れた感覚を肌が思い出した。 どのくらい昔のことなのかも見当がつかない。 ふと、奇妙な考えが浮かぶ。 この声と手は同じ人間のものではないだろうか? そしてこの人は俺に別れを伝えに来たのではないか? 確かめる術はなくとも、 確信を持ってそう言い切れる気がした。 (俺に別れを言いにきたのなら、どうして、) きっと今の自分は無表情のまま、 どこともない宙を見ている。 呼びかけに応えなかったからか、 声しか聞こえない知人の存在は、 次第に薄れかかっていくようだった。 (せめて、後ろ姿でもいい、姿を、見せてくれれば…) もう初夏だというのに、どこから冷たい風が吹いている。 北国ならば年中吹いているような、 少しばかり雪を含んだ風だった。 柔らかい音をたてて、立ち去る後姿が消えるのを感じた。 ********* リハビリにひとつ。 そういえばデスクトップが帰ってきました。 過去ログ纏めないとな…。 No.306 - 2009/04/13(Mon) 14:38:40 ********* 幻想に好かれる男 前髪の長くなかった昔は両目を見せていたんだ。 歳をとって、何時頃からかは分からないが、 片目だけを出すようになったんだよ。 「…? でもどうして片目だけにしたんだ?」 「……」 パレットから色をとり、さあ塗ろう、 という体勢でエルディの手が止まった。 場違いな質問か、そうでなければ 心の古傷に関わるような質問をしてしまったらしい。 異変に気付いたヴァンは慌てて手を振った。 「あ、ああ、言いたくないなら構わないよ、エルディ」 「言いたくない訳じゃないんだけど」 エルディは一瞬躊躇してからヴァンに向かい合い、 前髪を掻き分けて両目を出した。 「ヴァン…幽霊って信じてる?」 「…幽霊?」 ぼう、として数秒、 エルディは恐らく、幽霊が見えることを信じるか? ということを言ったのだろう、と気付いた。 つまり、エルディには見えている。 「あ……そうか、見える、のか」 「ああ。稀に。右で見えるんだ」 「だから右を隠してたのか、なるほど…」 片目を隠すなんて戦闘においては不利な髪形だが、 エルディはあくまで「中立的」立場の人間であるから、 意味がないのだろう。 ましてや、辺鄙な廃城に閉じこもって 絵を描いているだけなら髪型など気にする必要はない。 「そうかあ、エルディも、幽霊見えるのかあ」 「…え、ヴァン、見えたのか?」 呟きが聞こえたらしく、 エルディは珍しく感情を表に出して、 意外だ、という表情をしていた。 それを見て、ヴァンもあれ、と頭に疑問符を浮かべた。 「エルディには言ってなかったか?」 「言ってない。今ので初耳だ」 「話してくれてありがとう。  エルディと俺に意外な共通点が見つかって良かったよ」 「そうだな。あんまり喜ばしくない共通点だよ  幽霊が見えるなんてものが共通点だなんてね」 暫く無言でいたあと、二人は同時に噴出した。 嬉しくないなあ、全くだ。 ********* エルディとヴァン。 リハビリ    かもしれません。 No.335 - 2009/07/17(Fri) 17:26:49 *********