現代パロの一幕 こんこん、と少し厚い鉄扉の外側をノックする音が聞こえ、 男は座っていたソファから離れ、ドアを開き…。 外で満面の悪戯っ子顔をした青年の姿を見て気だるそうに目を細め、 ドアノブに少し体重をかけて体を傾けた。 青年はその手に土産が包装されているような箱を持ち、 男の顔に見せびらかした。 そういえば、この間旅行に行ってくる、と言っていたな。 薄々その手に持つ土産の内容が分かり、 男は無表情な顔にうっすらと苦笑いを浮かべる。 「じゃーん」 「…何用だ、突然」 「旅行先からおみやげだよ。あんた、好きだろ?」 にぃ、と男に無邪気な笑顔を向けると、 青年は勝手に玄関から部屋へとあがった。 男がそれを咎めるのをしないのを 知っている青年だからこそできることである。 ぱたぱたと青年が走る、 綺麗に磨かれたフローリングに、 天井で輝く乳白色のライトが反射していた。 「今度はどこに行っていた?」 「北海道。ちょっと絵が描きたくなったし、安かったから」 「そうか」 見た目からは判別し難いが、青年には確かな絵の才能があり、 芸術大学の知り合いに見せれば趣味にするのが勿体無いほど 彼の書いた絵は美しかった。 だというのに、青年の将来の夢は芸術家やアーティストなどではない。 そんな「惜しいことをする」事態を招いたのは実のところ、 今革張りのソファでくつろぐこの男であった。 「ほら!うまく書けたと思うんだけど」 「元の風景の写真はあるか?」 「準備はしっかりするよ、俺。えーっと…あった、これ」 興味深い目つきをした男の問いかけに、待ってましたと言わんばかりに 青年は持ってきていたバッグから一枚の写真を取り出し、 絵の描かれたスケッチブックの横に並べた。 北海道に行って彼が書いたのは広い草原と、 青空とのコントラスト。 別のページには野草のスケッチや人物、背景、星空、 その他諸々の絵が描かれていた。 「ふん…腕を上げたか」 「伊達にこの一年、 あんたの好きな背景ばっかり書いてきてないからね」 その答えに、男は静かにため息を吐いた。 ****** 分かる人にはわかるもの。いやー書いてて楽しい。 設定はまだ中途半端にしか決まってません^^ No.127 - 2007/08/06(Mon) 23:36:15 ********* 追想は、彼女の為に あれから、数年経った。 数年経って、この身体も随分と大きくなった。 毎日見上げる大樹の姿は、それでも微々たる変化を見せたりなどせず、 孤島にぽつん、と大きく聳え立っていた。 一体何が変わっただろう、この世界の、どこが。 この心の、どこが。 悩めば悩むほど奥底に閉じ込められた、 小さな破滅の胎動が聞こえ始め、 「ああ、」と悲しい位衰弱して掠れた声ばかりを漏らした。 本当の肉親であったあの男も、 恐らくこの声に騙され、呑み込まれ、 正気という己の結晶を自ら壊してしまったのかもしれない。 長く、独りで生き過ぎたのかもしれない。 孤独に慣れてしまって、 生きることに疲れたのかもしれない。 あの凄まじい死闘の日々が、他の者にとってはたった数年が、 こうして過去に心を奪われた自分には 随分昔のように感じられてしまう。 それを変えようとしても過去から逃れられない自分に、 とてつもない悲しみと諦めが湧いた。 それでも、どうして俺は生きようとするのだろう? (めをさまして、エルディ) その声が、あまりにも優しすぎて、つい首を振る。 (わたしは、ここにいるわ) 確かに、彼女はそこにいて、俺を見ている。 (あなたをひとりになんてさせたくないの) でも俺は確かに、心の時を永らく留めすぎた。 ぴぃ、と間抜けな小鳥の囀りで、 意識があることが分かる程度に浅かった眠りは消え去った。 目を開けば、 目映いばかりの新緑が一面を覆った草原が広がっている。 この数年間、島に帰ることは幾度かあっても、 一度たりとも村には戻っていない。 戻って、記憶の残る人々にあれやこれやと 事件のことを聞かれるのを嫌って、そうしたからだ。 村が見下ろせる丘を立ち去り、 もう一度、巨大な大樹の面影を振り返り、 そこに宿る彼女を見やって少し微笑む。 俺が今彼女にしてあげられるのはこれだけ。 きっと彼女はそれで確かめる。 俺の心は、ちゃんと生きているのだと。 ****** 聖剣4より、ED後エルディとフィー。 あんまり明るい性格にはかけないなあ…。 No.133 - 2007/08/20(Mon) 16:54:38 ********* 運命の末路 暗い闇の底、奈落の果て、深淵の溜まる場所、 いずれも当てはまらない程に深い暗黙の中で男は一人叫んでいた。 「お前は誰だ」 「俺はお前と同じ存在だよ、ストラウド」 「気安く名前を呼ぶな!」 暗闇の果てからぽつり、とまた同じ声がそれに答え、 男が苛立った様子辺りを見渡し、 しかし誰もいないのに困惑して目を細めた。 ふと、声の主が悲しく項垂れるようにため息をついた。 「お前は彼らに飲み込まれ、ここにたどり着いたんだ。 俺にはお前を助けることはできないよ」 「ならば何故語りかけた?」 「それは…」 声は一旦、考え込むように間を空け、 男は声のする方向へ目を向け、 誰もいないという事実に再び舌打ちした。 その音に、少しだけ声は驚きの声を出し、 また元の調子に戻っていく。 「それは、俺がこの世界で唯一お前のことを恨んでいないから… かもしれない」 「どういう意味だ」 「お前が一番良く知ってるよ、俺よりもずっと」 ふと、誰かが背後に佇み、 こちらを伺い、穏やかに微笑んで首をかしげた。 暗闇の中でその人間だけは、 眩しい光のスポットライトを受けて輝いていて、 淡色の髪はきらきらと乱反射して辺りに光をばら撒いている。 「だから、さようならを告げに来たんだ」 「……まさか、この声が貴様とはな」 「もう十年経っているから?それとも調子が違うから?」 青年の立つ場所だけは闇が晴れていた。 そしてまた、男の立つ場所も、同じ様子だった。 「でも、これでお別れだ。さようなら、ストラウド」 「エルディ」 「名前を呼んでくれてありがとう…」 そして、スポットライトが消えた。 ****** ストラウド祭締めくくりのために一つ。 エルディとストラウド …しかかいてない(……) No.167 - 2007/12/09(Sun) 11:57:12 ********* 人の血は赤色だと神は嘆く ※「そして始まる〜」設定 「たとえばの話だ」 昏々と眠る弟の首に手をかけて、ストラウドは自分に語りかけ、 その目は酷く死んだ様子を表していた。 首にかかる指に力を入れ、 ぐっとくぐもった声が聞こえるかと眺めるが、声はしなかった。 呼吸ですら、安らかに眠る人物はしなかった。 「俺がお前を殺したら、お前はどう思う?」 「…なにも思わない。死ねば心も頭もなくなるからな」 「死ぬのが怖いか?」 「少しも怖くないよ、今は」 ひゅっ、と押し潰そうとする指の合間から掠れた呼吸の音がし、 アーシュはやはり穏やかな顔で目を開ける。 随分前からこういう顔をしていた。 身に付ける衣服も白い物だけ、 これが自分の死に装束だと言わんばかりに うつろな目で何度も何度も空中に何かを描く。 「俺が死ねば、何かを残せるかと思うんだ」 「俺の記憶にか」 「もしくはその世界の端っこの小さな染みだ」 「本気でそう思ってはいないだろう」 首から手をのけ、忌々しいなと吐き捨てて、 男はベッドの淵に腰掛け、 暫くの間、手を組んで考え込んだ。 ベッドの中央で、今まさに死相を浮かべる青年は、 その背中ににやりと笑う。 目はまるで笑っていない。 自分への嘲笑か、それとも兄への嘲笑か、 三日月のように唇を捻じ曲げて。 「本当はそれともう一つある」 笑みを引っ込め、目を閉じて眠りにつこうとしながら、 エルディは部屋を出て行こうとする男の背中にぽつりとつぶやいた。 「もう誰も殺さずに済む。それが救いだ。 もう、疲れた。私は、死にたくも生きたくない。 だが、人を殺さない為には、死ぬしかない…」 「…くだらんな」 「そうだろうな、その目から見れば。 だが実際…疲れたよ、こんな世界、こんな命。 今のは本心で言っているよ」 流暢に喋り終えたエルディに、ストラウドは何も言わなかった。 それでも、今現在にもう疲れたと言う弟を生かしておく事にした。 「お前が死にたいというなら、」 「お前の望みを叶えるのは癪だ。俺はお前を殺さない」 ********* ストラウドがエルディを殺さないのは、同情から。 エルディは狂ってるのではなく、本当に疲れてます。 無意識の言動って、結構怖かったりする。 No.182 - 2008/02/03(Sun) 07:43:25 ********* 鏡の心 ※「神の鍵」設定 例えば、誰かを愛したとして。 例えば、愛した誰かを殺してしまったとして。 その時感じる、心の痛む感覚、あれは、たまらなく苦しくもあり、 同時にこれ以上無い望郷の念に包まれた時に似ている。 手足が冷え切った大理石の床に転がるのを 思考なんて止めてしまった頭で見つめていた、 その時ふとそう思って。 死んだ先には天国も地獄もなく、只の無だと、 もうそこには死者の残り香しか残っていないのだ、と、 人々は知るのが恐ろしかった。 死んでしまいたい、そう思って俺は一度確かに死んで、 けれど、生きて欲しいという願いを聞いた。 暖かい、何時かの懐かしい日に聞いた声の気がして、 俺はまだ、ここでこうして生きている。 何もかも無くなってしまうのが恐ろしかった訳ではなかった、 全て終えて俺には何も残っていなかった。 ただ、幻影を愛した。 自分の鏡のような、抽象画に似たその手に手を重ねて、 応えなんてないのに、 何度も何度も心を残り香へと重ねて、確かに愛していた。 馬鹿らしいと自分で思いつつ、けれど、 それだけが支えで、如何しようもなく悲しくなった。 俺は、普通から見れば永い時を生きている。 人にとっての一生を、大体九回繰り返せば、 ようやく死が訪れるだろう。 でも、遅い。 死者の影を追うのにだって、遅すぎる。 友情の、愛情の、憎悪の、ありとあらゆる幻影が消える頃、 ようやく眠りに就くのだから。 だから誰かを愛すのが恐ろしくて、憧れていた。 愛すなら、幻影の方が良い、反応の無い鏡がいい。 鏡は体温も感情もないから、未練なんてない。 それが一番、俺には、ふさわしい。 どんな人でも溶かせない氷で心を凍てつかせた俺には。 自分でももう、どんな風に笑うのか忘れてしまった俺には、 氷と同じくらい冷たい鏡が、 ぱた、ぱた、 ふと気づけば、泣いてたんだ。 何も辛い事も悲しい事も無いのに、 一粒、二粒、涙が頬を伝った。 出来るなら、誰かの為に死ぬ死に方がしたい、 誰かの命を、先延ばしにする為に、俺は、消えてしまいたい。 体温と感情のある人間を、誰かを愛して、 その愛の為に、死にたい。 ********* エルディが自我忘失していた時の心情を験し書き。 命が長い種族(エルフとか)は、綺麗な死に方に憧れそうだと思ったので。 …ヴィルアも同じ考え方を持ってるのです。 No.185 - 2008/02/11(Mon) 01:17:43 *********