一発ねた 長閑な昼下がり、今日も今日とて子供たちは エルディの元に来ていました。 エルディはいつだって笑みを浮かべて、 おいしいお菓子をたくさんくれるのです。 子供たちはエルディが大好きでした。 「ねえ、エルディお兄ちゃん」 「ん、なに?」 「何でお兄ちゃんはいつも薄着なの?」 「え、」 エルディは一人の子供がした意外な質問に、 ちょっとどっきりしました。 普段からのんびりふらりとしているので、 あまり驚きには強くないのです。 「えーと、」 「わくわく」 「…ええーと、」 子供たちはどんな答えが来るのかドキドキ。 一方質問されたエルディは困惑して考え込みます。 そして数分が経って、やっと答えが出たようでした。 「動きやすいし着替えやすいから?」 「ええーっ」 「生まれてこの方、ずっと薄着だったからなあ」 あはは。とエルディは呑気に笑いました。 立派な大人なのに薄着で良いのかは分かりませんが。 子供達はちょっと気まずくなりました。 「じゃあ、何でその髪型なの?」 「ああ、これか…」 「わくわく」 「えー、とな…」 今度こそ変な答えが出ませんように。 いつの間にか子供達全員はそう思っていました。 暫く時が経ち、小鳥が旅立った頃に エルディは口を開きました。 「気分?」 「………」 誰もが最悪の予想としていた答えが出てしまいました。 今日も今日とてエルディはのんびりふらり。 そんなエルディに、子供たちは少し不安になりました。 この人、どうやって世界を救ったんだろう。 でも、呑気に笑って紅茶を作ってくれるエルディが 皆大好きなのは変わりません。 たぶん。 ****** そんなエルディがレキウスは好きだったに違いない。 ただの一発ネタですよ。ふふ。 No.59 - 2007/02/15(Thu) 21:15:15 ********* やったね!50件目! だそうです。五十件目になりました。 お二方、どう思いますかね? 「へえ、50件目らしいね、エル」 「ごじゅ…。よく書いたなあ」 どうも。暇人なんです。 「気を落とすことないよ。ね、エル」 「うん。努力すれば出来るじゃんか」 ありがとさん。 「ところで、このサイトはあと二ヶ月で一周年らしいね」 「そうなのか?俺知らなかった」 ですね。私も今気づきました。 のんびりふらりとやりすぎたかね。年なのかね。 「公式の俺たちの年齢、正確には決まってないよね」 「だよなぁ。いい加減固定しろよなぁ」 「だよね」 小説書く身としちゃ、固定した方が良いんですがね。 あでもま、後で微調整すればいいんですがね。 「ここの俺の性格は、確か強くて腹黒だったかな」 「俺は確か、甘党で元気一杯だよな!へへっ」 そうですそうです。エルディが甘党なのは普遍。 鉄の胃袋で料理上手なのも普遍。だといいなあ。 「そしたらいつでも俺の所にお嫁にこれるよ」 「そっかあお嫁さんかあ、俺出来るかな」 「突っ込まないのかい?  でも俺はそんなエルディが好きだよ」 純情派は書いてて和みますね。空気が春だ。 エルディは完全にぼけでいい。 「春眠暁を覚えず、というのはこのことだね」 「しゅんみん?あかつき?聞いたことあるような」 「眠くなる季節だってことだよ、エル」 ついでにお頭も弱い。たぶんストさんもそうであろう。 「五十件だって」 「五十件かあ。長いなあ」 「そうだね、長いもんだよ」 話題切れちまったよ。 「困ったな」 「困ったことになったぞ」 ここできろう。 「そうだね。じゃ行こうかエル。  紅茶入れてお菓子でも食べようよ」 「お、いいな、それ!じゃ俺先に行ってるよ」 「走っちゃ駄目だぞ、怪我したら大変だから!」 「分かってるよー」 ****** 書くねたがこれしかなかったんだい。 No.60 - 2007/02/16(Fri) 22:08:46 ********* 触れた、見た、聞いた その時確かに声を聞いた。 村への帰り道を急いで走っていると、ざわざわ、ざわざわ、 耳元で誰かが俺に囁いていた。 「エルディ、」 初夏の季節、ぶわりと吹く風は人肌の温さだった。 その声は優しくて暖かい、男の人の声だった。 名前も顔も知らないけれど、もしお父さんがいたら、 きっとこんな声が良いな、と思った。 怖くはなかった。怖くはなかったけれど、悲しかった。 どうしてそんな悲しそうな声をするんだろう? 貴方は誰ですか、と小さく俺は言った。 「私は、裏切り者です」 裏切り?何への? 「世界への、でしょうね」 その時ぶわりともう一度森の中を風を通り抜けた。 子供だった俺は、わあ!と言って目を瞑る。 隣にいた淡い気配が消えるような気がして、 必死でその声に語りかけた。 「待って、置いてかないでよ、」 「私は行かなければならないのですよ、エルディ」 「でもおれ、もっと話したい!」 「駄目なことは、駄目なのですよ」 「まって!」 「さようなら、エルディ。また会うことになるでしょう」 声がぴたりと止むと、誰かが歩み始めた音がした。 森中を吹き抜ける風に乗るようにふわり、と飛んで、 そのまま大空へと男の人は行ってしまった。 幼い俺は透き通った青空を見上げた。 「レックに話そう。俺、ふしぎな声を聞いたって!」 きらきらと輝く太陽に手を透かしながら、 俺は声の聞こえた場所から急いで走り去った。 思えば、あれはあの人の声だった。 それを思いついた俺は静かに彼に追悼を掲げる。 世界を愛していたんだろう、きっと辛かったろう、 でも結局過去は変わりなどしないのだ。 日差しの降り注ぐ窓を見つめ、俺はそっと目を閉じた。 きっと俺は、そのことを忘れはしない。 きっと俺は、あの人の思いを忘れはしない。 ****** 小さい頃、きっとエルディは仮面の導師と会ったはず。 …だといいなあ、と思いました。 エルディが偽者…! No.63 - 2007/02/17(Sat) 21:43:18 ********* 短文 朝日に緑の葉を煌かせて女神は静かに微笑んだ。 世界すべてに対して、世界に愛された少年に対して、 『わたしはずっと貴方と一緒よ、』 地面に深く突き刺さったその剣を、少年は抜かなかった。 怖かったのか。大義名分は面倒臭かったのか。 いずれにせよ、少年は静かに力を抜いて大樹を見た。 大樹の奥に眠る、マナの女神の目を見た。 「力はいらない、ただ、休ませて欲しいんだ。  おれはもう疲れたから」 深く深く眠りについていた大樹は優しく気高く立っている。 少年は女神の生まれた瞬間、その膝元で眠っていた。 マナが轟き、産声を上げるその瞬間を見た。 『いつでも貴方を見守っているよ』 その声を聞いたのか、少年はそっと目を閉じて剣を振り向いた。 朝日にさんざめく剣のその輝きを見た。 彼は命とは実に儚く美しいものであるかをよく知っている。 ただ、彼はあまりに多くの物を失った。 「ありがとう」 少年は女神を見上げた。女神は再び優しく微笑んだ。 マナの生まれる産声が樹から響いている。 きっとおれの心は世界が目覚めた時から死んでいた。 大樹が生まれたその瞬間に塵までも消えた。 だから俺はうまく泣く事が出来ないんだ。 泣きじゃくる少年の足元に、地面の上に、 朝日を乱反射して透明な涙が一粒、二粒、こぼれていった。 ****** エンディング後、エルディとフィー(リチア?)。 大人になってもエルディには女神の姿が見えたのでは ないだろうか。 余計救われない… No.65 - 2007/02/18(Sun) 16:23:56 ********* それが二人の始まり 火照った肩を石の壁に押し付け、エルディはため息をついた。 島を出てから、行く当てもなくずっと彷徨い続けている。 四年前にした冒険の中で蓄えた貯金のお陰で事なきを得ているが、 それもいつまでかはよくわからない。 一体何の為に彷徨っているのか、その理由でさえ掴めずに、 世界中をエルディは歩いていた。 誰かに呼ばれている気がしたのだ、こちらへおいでと、 全身が喜びに震える声で呼ばれていたのだ。 やはり幻影だったのかもしれない。 溜息をつきながら地図を鞄にしまい、エルディは再び歩き始めた。 最近気づいたが、ひょっとしたら自分は兄を追っているのかもしれなかった。 昔は苛立ちと哀れみと憎しみしか湧かなかった者だ。 しかし、今は誰でも良いから知り合いに会いたかった。 ワッツには一ヶ月前に会って歓迎されたし、 他の諸国を回って四年前の自分の軌跡を辿った。 もちろん、ロリマーへも寄り道をした。 思い出せないが、きっと幼少の頃見たはずの景色を見た。 王族は喜んで王宮内へも案内してくれた。 だが、胸に潜む靄は晴れずに、黒々と渦を巻いている。 「やっぱり、イルージャに帰ろうか…」 念の為、島を出る際エルディは家を一つ買っていた。 (村の人々の好意で無償だったが) 一人旅が嫌になればそこに戻ることだって出来る。 けれどそうしたくないのだ。 胸の何処かで何かが蠢いてそうさせないのだ。 「エルディ」 道の脇の手摺りに寄り掛かって青空を見上げていた耳に、 随分長いこと待ちわびていた声が聞こえた。 その声を聞いて、エルディは思わず顔を下げた。 「!」 四年前と比べて少し成長した一人の男の姿が目に入る。 男は少し目元を綻ばせてこちらを見ていた。 「久しぶりだな、」 エルディは驚きのあまり声が出せなかった。 今見ている人物全てが夢ではないかと耳をつねったり、 ばちんと頬を叩いたりした。 完全に夢でないことを確かめてから、 エルディは満面の微笑みで男に笑いかけた。 「おかえり」 ****** 男が誰かはご想像にお任せします(!) ……正解=ストラウド No.68 - 2007/02/26(Mon) 21:26:39 ********* そうさ僕はドリーマー それは羽が綻ぶような柔らかさだった。 真夏の、あの焼けるような日差しの下で、 眩しい笑みが似合う人物とキスをした。 日差しで金髪はきらきら乱反射し、青い目は白い入道雲を 青い海と一緒に映し出していた。 レキウスは毎日毎日、この世界で一番綺麗な青に口付ける、 事を夢見ていたのだった。 だから口付けが終わり、少し距離を置いたレキウスは思わず 「わ」とも「う」ともつかぬ声を出した。 目と鼻の先にいるエルディの頬は真っ赤になっていた。 幼い頃からもう五年が経っているというのに、 時折、レキウスは両頬を赤く染めたあのエルディを夢に見る。 その柔らかな頬に少し尖った自分の髪が当たり、 もう一度同じように口付ける。 毎夜同じ場面、同じ行動を夢に見続けていたのだ。 最近、そんな夢の場面に些細な変更点があった。 幼いその姿はいつの間にか成長した姿に変わり、 視界の端で僅かに長い眉毛が揺れるようになった。 つまり、エルディが自分よりも年上の姿だった。 今のままでも艶のある青は更に透き通っていたし、 微笑む口は何処か悲しみの影を纏っていた。 まるで守ってやりたいと思わせるような儚さの人だった。 所詮夢なので、目覚めれば消えてしまうのだが。 レキウスはまたもや真夏の海の夢を見た。 眩しい日差しの下で口付けを交わし、お互いの顔を離し、 エルディが離れていった。 終わり方はいつもそういった調子だった。 朝日の爽やかな光を目に映しながら、レキウスは自分の見た夢を叱責した。 その日はエルディと遊ぶ約束をしていたのだ。 (夢でキスした相手にどういう顔したらいいんだか…) 思春期に突入した少年は、 今日もベッドの上で静かに自分を叱責した。 (勝手に思ってごめんよ、エル…) それでも毎夜見ちゃうのは止められないことだと思うんだ。 言い訳を頭の中で言い続けながら、 レキウスはベッドを飛び降りた。 ****** レキウスは私と同じ、むっつりだと思う。(…) 久しぶりに書いた小説がこれというのは……。 そうさ僕はドリーマー。 No.72 - 2007/03/03(Sat) 15:54:36 ********* まぼろし 静かに流れる小川の傍にある家で、静かに身を横たえ、 時間やら人やらが過ぎるのを男は待っていた。 もう随分と長い時が過ぎたが、男は待っていた。 程好い角度に作られた椅子の背凭れに細い体を任せて、 男は確かに何かを待っていた。 人でなく、思い出でもなく、物でもなく、 果たしてそれが何なのか、男にもわからなかった。 今から十年前、彼は活発で笑顔の眩しい少年だった。 きらきらと金髪を日の光に透かし、青い目で微笑んだ。 彼には多くの仲間、友人達がいた。 十年前、彼は世界の災厄で友人と肉親を失った。 その小さな手で、世界全てが受ける筈の断罪を受けた。 あまりにも大きくて、彼はもはや少年でいられなくなった。 災厄から世界を救う旅の途中、数人の子供を助けた。 ありがとう、と言った子供達。 十年経った現在、彼らは時折男を訪ねてくる。 季節に合った果物やら食べ物やらを持って、災厄の時の話を聞きにくる。 男はその子供達に余すことなく話をした。 それでも、男の目には昔の覇気など無くなっている。 随分前にどこか遠くでそれをなくしてしまったのだ。 それはとても大事なものだったのだけれども、 小さかった少年はいとも簡単に失くしてしまった。 ゆっくりと何かを待つ男は静かに目を開けた。 男、というには勿体無い容姿の彼は、微笑んだ。 少年がかつて浮かべた微笑に、それは僅かに似ていた。 「―――」 言葉にならないまま、声は空中に漂っていった。 儚さを伴う微笑みを浮かべたまま、彼は身を起こした。 エルディは静かに素足でフローリングを歩いた。 日差しを受けて、ほんのりと温もりを保っていた。 「俺はもう逃げない」 光の中に浮かび上がった人影に、そう言った。 白昼夢だとて、エルディは構わなかった。 その幻の頬に手を当てて、もう一度瞬いた。 「ずっと忘れないよ」 消えてしまった面影にもう一度囁き、エルディは目を閉じた。 面影の温もりが僅かに残っている気がして、 その暖かさを包むように右手を頬に当てながら。 「あんたの元に行くには、まだ早い」 ****** 十年後のエルディと誰か。相手は誰でも可能。 でもあんただから…? No.74 - 2007/03/10(Sat) 13:25:55 *********