灰色の空 モノクロームの景色の中、青い瞳だけが色づいて見える。 お迎えが来たのか、何だやけに早かったな、 吐血した地面から視線を外してその目を睨み付け、 右手に握る剣の柄をきつく握る。 きつく握り過ぎたか、少し痛みを感じて、 見れば握り締めた拳から一筋、赤い血が流れ出た。 ああちくしょう、こんな時に、か… 「なあ、」 霞み、歪み、傾き、 それでも映る何処か不気味なほど生き物の匂いのしない景色の中で アイツが暢気に笑っていた。 いつもと同じように、怖いくらいに穏やかに、 死に物狂いで(実際死にかけてはいるが) 立ち上がろうとする俺の姿を青に映して笑っている。 「俺はその記憶の中にどんな風に映ってた?」 ずるずると剣を引きずり、目の前に躍り出た黒い物体を切り伏せ、 腰を屈めてもう一度、今度は大きく剣を振りかぶった。 鉄に似たまずい味しかしない口の中で、少し舌打ちをする。 終わりにさせはしない、終わりにはしない、 「人ってさ、死ぬ前に走馬灯を見るんだ」 記憶の中にある光景か、それとも死に間際の幻影か、 逆光でよく見えない顔の口元が言葉を躊躇った。 何時のことだったか、思い出せなくなってきた。 「そんなもの見ずに、生きろよ」 言われなくとも、 「死ぬなよ」 ****** そんな話。 No.214 - 2008/06/02(Mon) 22:25:08 ********* 記憶と重なる偽善者 あの時、はっきりと「お前は偽者だ」と言われて、ほんの少し…  本当に少しだけ、ずきりと心が痛んだ。 哀しみを感じる余裕がまだあったのか。 それとも、俺は最後まで偽善者でありたかったのか。 別に向こうの貴方を責めてる訳じゃない、 ただ、俺がまだ浅はかな感情を持ってることにびっくりしただけだ。 もうとっくの昔に、自分がずっと笑顔を貼り付けて 他人を騙そうとしていたことを、 俺も貴方もよく知ってるじゃないか。 そう、だから、偽者と言われても哀しくないはずだろ? …それなのに、不覚と言うか情けないと言うか、 俺は少し目が涙ぐむのを感じていた。 きっと柔和で暖かくて、もう戻れない過去の夢に 自分を浸らせたかったんだ。 今でも俺は、あの国の暑い陽射しを、昔いた仲間の笑顔を、 俺と貴方がこんな目に遭う前のことを、 ずっとずっと懐かしがっている。 情けない話だ、自分でその災厄の黒幕を突き止めたのに。 悲嘆に暮れ、真実を追うことを嘆き、 己の身を可愛がることなんて、もうしないと決めていたのに。 そうだ。 向こうの貴方の、心の鏡には、もう一人、映っていた。 「お前は偽者だ。でも、アイツだろう?」 どうして、そう思う? 「お前の後姿に    を、見た。  記憶にない景色の中にある姿を」 偽善者と言われることには、 この職業柄、もうとっくのとうに慣れてる。 味方も敵も騙しきることが俺の仕事には必要で、 俺は元々人を騙すことの意味をよく知っている。 それなのに、あの時自分の本音を曝されて、 俺は初めて、ずっと求めていた部品が、 最後の空白に埋まったのを知った。 空白に埋まった部品は完璧なのに、 埋めた人は、あまりにも予想通りだったからか、 真っ直ぐ見つめられなかった。 だから、 誰かに俺の本音や弱みを知られてしまうのを俺は酷く嫌っている。 大体、何もかも知って、 それでも誰かを愛するなんて無理に等しいんだ。 俺は貴方にだってそれを求めたりなんか、きっとしない。 ********* 十年後ヴァンの独白。 ファムランへの呼び名が違うのは、昔と違うと言う事を自覚する為だったり。 誰かの真似をし続けると自分を見失いそうだ、 と思って書いたもの。 No.217 - 2008/06/11(Wed) 21:45:43 ********* 冷たい町 「もう、よせ。  …余計苦しむだけだ」 「分かってるって、でも、あと少しだけいさせてくれ」 「何が起こっても知らないぞ、俺は」 相変わらず、そこは曇天だった。 むっとする程植物は生い茂り、建物という建物はひび割れ、 今でも建っているのは修復可能なものだけだ。 それでもその町は、何もしないよりはマシになってきた。 「俺の家、何処にあったか、知ってた?」 「…土地勘で覚えてたな。悪いが思いだせない」 「いいって。もう、酷い状態だった」 「この気候なら仕方ないだろうな」 暦の上では真夏だったが、その町には冷たい瘴気の風しか届かず、 それ故殆ど人は住み着かなかった。 元々、ああした大規模な災害―  むしろ、災厄というべきか。 あれがあったのだから、住もうなんて考える方が可笑しいのだ。 「そろそろ病の周期だな…」 「ああ。流石に、もう待つのは無理だ、行くぞ」 「了解、了解…」 都だった廃墟の外に、砂嵐が見える。 風が強くなり始め、灰色だった空は最早黒と言う程沈んでいる。 大量に作られた粗末な墓を前に、すっくと立ち上がった青年の、 雨と砂を防ぐ薄めのフードがぱたぱたと煩くはためく。 その後ろで似たような格好をした人影は既に墓から遥か遠く、 その墓の群れから砂漠へと、離れ始めていた。 「違う未来はあったのかもしれない」 「そう…だな」 「だがな、俺たちはここで立ち止まるほど気楽じゃない。  源を止めない限り、この悲劇は繰り返す筈だ」 瘴気によって禍々しい薄紫色に変わった砂を踏みながら、 青年はその言葉に、静かに頷いた。 ********* 217のちょっと前くらい。 「処刑者の涙」からちょっとした続き物だったりする。 No.218 - 2008/06/11(Wed) 22:09:17 ********* 燃え上がった刹那 チリっとした。 指先に、炎が触れた感覚だ。 でも、なんで? ここに炎なんか、 「よせ!もう間に合わない!」 強く引き寄せられて、体が地面に倒れこんで、 後ろに立つ彼が酷く焦った顔をしている。 如何してそんなに蒼白な顔になってるのだろう? 前にいた女の子の姿がなかった。 代わりにあったのは、    あれは、何だ? 「息止めろ、死んでもいいのか!」 うそ、だろ? 馴染み深い匂いがした。 思いっきり強く、後ろから抱き締められた。 それで足が彼の方にぶれた。 髪を、体を、全てを、巨大な衝動が流していく、 空気が吸い込まれた先で、熱が出でて、 俺と、俺の後ろにいる彼以外の存在感が消えた。 (燃えてる…) 驚愕に瞳孔がさあっと開いた。 (そんな、) うそだ、そう言って泣き出す前に、一瞬で燃え上がった。 ********* ある設定上で前提された過去の話。 ヴァンとバルフレアだったりする。 何が起こったかは、想像にお任せ。 No.220 - 2008/06/13(Fri) 21:31:30 ********* ふたりのかけら 思い出して欲しくなかったから、思い出を閉じ込めた。 彼が思い出したらきっと俺を責めるだろうけれど、 俺は何より彼の無事を最優先にした。 でも本当にこれだけで守りきれるだろうか?とも思う。 …何もしないよりは、マシだ。 そう思うことにした。 思い出してしまったから、面倒なことに加担した。 そんなに思っていたよりはやるせなさを感じない。 勿論、時折どうして俺が?と思うことがある。 考えてみろ、勝手に一人で処分すればいいことだ。 それでも助け出そうとする俺は、お人好しかもしれない。 如何して何も教えてくれなかった? No.222 - 2008/06/15(Sun) 22:31:09 *********