悲しい笑い、暖かい笑い 「ああ、そうか、どうりでとても悲しそうだと思ったのか」 ヴァンは、一人納得したような声を出したバルフレアに目をむけ、 唖然として目を瞬いた。 何時も素っ気無くやる気なく過ごす彼にしては珍しく、 穏やかに笑っている。 明日、雨どころか吹雪くかもしれない。 「悲しいって、」 「エルディ・アーシュ・ロリマー、だ」 真剣な顔つきで返された名前が、あんまりにも意外だったので、 もう一度ヴァンはぽかん、とした。 バルフレアは今まで彼と面識はあまり無く、接点も殆ど無い。 だのに、如何してそういう結論を出せたのだろう、と (自分でも良く自覚しているが、)回らない頭で少し考えた。 「いや、笑い方がな…前のお前と似てたんだ」 「前の俺……?」 「随分前の方だ。あの時、お前もああいう目つきをして、」 悲しそうに笑ったもんだ。 *** 「それじゃあ、俺はもう行くから…」 「本当にありがとう、エルディ」 「良いんだ。どうせ、暇だった」 門に隣り合う砂漠からの砂塵が目に見えるほど、その日は風が強く、 エルディとヴァン、両者の髪をかき混ぜていた。 風が強いだとか、目に入りそうだとか、髪ぐしゃぐしゃになるだとか… 二人は本当に他愛なく、親友とはこう在るべき話し方をして安らいだ。 勿論二人は本当に親友で、仕事仲間で、 お互い辛い役目を背負っている同士だったのだが。 そして、とうとう帰ろうとしたそのとき、エルディはぽつり、とヴァンに、 「ヴァンの、とても暖かい笑い方だね」 「?」 「それじゃ、また、いつか」 意味が分からず疑問符が頭によぎる親友に笑いかけると、 エルディは砂嵐の舞う砂漠にまみれて見えなくなった。 (まるで、彼の全て包み込むつもりみたいな、) (そんな、笑い方だったよ、ヴァン) そのとき、エルディの悲しい目元に、ふっと浮かび上がった何か、を知ったのだ。 自分にもなんとなく、意味が分かってきて、 ヴァンはバルフレアと共に見た彼の笑顔を思い出す。 あの時エルディの目元に浮かび上がったのは、 間違いなくかつて彼が「愛しい」と思った面影なのだ、と。 ********* 続編パラレルのパラレル。 ヴィルアの笑い方とエルディの笑い方は似ている、 と言う話。 前世を思い出してないのに肝心なことだけ覚えてるバルさんと、 少しアホなことに気づいたヴァン。(…) No.138 - 2007/09/19(Wed) 20:04:30 ********* 途切れる青 夜明け前の薄明るい暗闇に、青いベッドライトに照らされて きらきらと輝く指輪を指に嵌め直す。 あれから七年ずっと肌身離さず持っていた所為か、 当時は貴重な価値を持った純銀が軽く磨り減り、所々傷があった。 修理したりしないのは時間も余力も必要性もなく、 逆にその傷が記憶を留める役割を担っていたからだった。 七年前、自分の死に間際を救った弟子は完全に左目の視力全てを、 憧れを掴んだ人生の道を、一瞬にして失った。 それでも後悔などせず、うっすらと開けた視界に入り込んだ、 左目から血の涙を流してにっこりと微笑んだのは、 何より彼の芯が強い証拠である。 だるそうに隣で寝そべり、何も考えずに浅く呼吸をするその横顔に、 青がうっすらと輪郭を模っていて、 少し抉られた肩の傷跡をより印象的に見せていた。 彼は手持ち無沙汰に枕へと頬を押し付け、 薄がりの中で薄い笑みを浮かべた。 「あとどれ程まで生きられると思う?」 「は…?」 「俺の病気、治し難いんだってさ」 途端にそのまま目を伏せて、次に上げられた顔は 照明に照らされて真っ青に染まっていた。 嘆いたり悲しんだりする素振りも無く、 ただ単に今後の予定を気軽に決めるように、 屈託なく目を輝かせて、再び目を閉じる。 「このまま死んだら、一番幸せだと思ったんだ」 「…珍しいな、お前がそう言うのは」 「だから、もう子供じゃないって!」 ****** なんとなーく、唐突に。 大人っぽくなった彼を見て、思わずこいつ!と 叫んでしまった。シャツ着てる…!(…) ちなみにFF12 …のパロ No.140 - 2007/09/30(Sun) 22:34:33 ********* 君の為なら死ねる ぎりぎり、ぎりぎり、歯軋りをする音が聞こえて、 あーあと思った。 相棒の機嫌の雲行きがまたどんよりと悪くなっている。 実はと言うと恐らく自分の軽率さが原因じゃないかなあ、 と気づいて、でも黙っていた。 十年前は立場が逆じゃなかったか、俺達。 「だから本当に何も無かったんだって!」 「お前の何もないは信用できん!」 奈落の底から出てきたかと思うほど低い言葉に、 うっ、と言葉に詰まった。 まァ、確かにそんなこともあったよーななかったよーな…。 だからって一、二日連絡をすっぽかした位で 機嫌を損ねるのもどうかと思いたい。 「俺だって一部隊を束ねる隊長なんだぞ!」 「とか言って崖から落ちたのはどこのどいつだったか、なあ?」 「アンタだって一昨年俺に連絡しないで どっか行ってたじゃねぇかこの女ったらしデコ野郎!」 口論をしつつもどこかが冷静な頭で、 「あっ素が出ちまった」と思ったが既に遅く、 周りにいた部下がびっくりしたような顔でこちらを見ている。 そりゃそうだろうな、 普段「そうですね」とか「じゃあこうしましょう」とか 言ってるインテリ系の男が突然「デコ野郎」なんて! むしろ驚かない方がおかしい。 「この分からず屋!」 「悔しいなら浮気すんな!」 「してねぇよ!」 ****** 色々ごたごた。どんがらがっしゃーん! こういう喧嘩ものも書くの好きです。 No.142 - 2007/10/11(Thu) 18:04:59 ********* 永い二人 「いつも人は変わらない罪を犯す、ってのがあるが」 「人は進歩し続けている…」 「ああ、そうさ」 人通りの少ない裏路地から大通りを見つめていた男は、 悪巧みを考えているような笑いを浮かべ、ゆっくりと歩き出す。 その後ろに、気配を消した青年が続き、やがて足音が消えた。 「人は愚かではあるが、そう馬鹿でもない」 「俺達もそうじゃないか?」 「どうだかね、永く生きているというだけだしな」 普通に歩いている様子だというのに、 彼らからは衣服が掠れる音も、 靴音や呼吸でさえも音は漏れなかった。 空き地で青年が立ち止まり、月を見上げている間、 男はぼんやりと煙草を吹かしていた。 「…で、あっちの尻尾は掴めそうか」 「それほどでもないし、あと少しってとこ」 「なら話が早いな。明後日あたりしかけるか」 男は口に咥えていた煙草をニ、三回指に挟んだまま 上下に揺らし、立ち上がる。 次の瞬間、その手にはペンライトが握られており、 青年は男のすぐ傍に立っていた。 青年の何気ない時間であっても任務を通す姿に、 男は思わず苦笑い、それから歩き出した。 「行くか、…坊主」 「何か用かよ、最速野郎」 冗談めかす口調で皮肉を言った男に、 すっぱりと素早く青年は皮肉で返し、初めてその口に笑みを敷いた。 ****** 大体、話し言葉で分かってしま…う。があん。 リハビリ中です。 No.159 - 2007/11/15(Thu) 19:50:19 ********* 笑え、馬鹿者たち 煌くビル群、つまらない事に飽きた奴等の 歓声が沸くドームを見下しながら、 短くなった煙草を何処かへと放り投げる。 時間はそろそろ、場所も寸分違わない、 確実にアレは訪れて、そして、全てが壊れる。 「Game start!」 水の中で激しく動き回る若輩たちの中で、 気持ち良さそうにアイツは攻撃を避け、 蹴った相手を蹴飛ばし返している。 元気なことで、が、どこまで続くか。 ― …こ ど……? お……どうな…? ― 背後、いや、この汚い都市の外側から、懐かしい声が聞こえて、 にやりと口元を歪めて次に訪れる襲撃を待った。 さあ、どうする、愚か者たち! 背後でヒュッ、と空気を裂いて何かが建物へ向かって放たれ、 見ていた高層ビルがそれはもう見事に真っ二つに粉砕される。 自分に当たらなかったのは、 たぶんドームの中で泳ぎまわるアイツが空気を、 いや、世界の存在自体をコントロールしてるんだろう。 「笑え、馬鹿ども」 待機していた路上から走り出した俺の目に、 空中に高く(ビルの天辺あたりまで)飛び上がったヴァンの姿が見えた。 (おいおい、間違えたらぺしゃんこだ、分かっててやってんのか) 誰かのエアバイクを掻っ攫う。 ゆっくり落ちていくヴァンは、 空中で二回転させてようやくエアバイクの後部座席に降りた。 「サンキュー」 「そう思うならもう少し慎重に行動しろ、ガキ」 「でも面白かっただろ、あれ」 凄まじい音を立てて崩れ行くドームを見ながら、 にこにことヴァンは笑っていた。 ああ、そりゃそうだろうよ、 こんなにくだらなくて最高な展開は有りはしない。 しかしお前、笑いすぎじゃないのか。 生憎運転中だったので、軽く肘でどついた。 「でも」 猛攻によって破片が飛んでくる程の爆風を受けながら、 何処かに足をかけ、器用に立ったままのヴァンは嘲笑を浮かべた。 「あっけないな、これが幻だとしても」 ********* 最近小説書いてなかったので。舞台設定とかは気にスンナ! いや…これ結構ノリで書いてますんで。 No.190 - 2008/03/02(Sun) 18:16:43 *********