わあわあ 空き缶蹴っ飛ばして路上を走り抜けた俺の背に、 また誰かの罵声が響いてああうるさいと思った。 無人の路地裏のきったない壁に落書きしたり、 むしゃくしゃしてたから石を壁に投げたり。 わあ、わあ、そうやって俺は一人で騒ぐのが好きだった。 実は、随分前から絵とか小説を俺も書いてた。 他人と同じものにならないような、とびっきりの、 俺にしか書けない極上のやつは書けなかったけど。 それでも、無邪気に俺はたくさん書いてた。 「あー、」 「うっせえ、少し黙れ」 「…う」 ソファで寝転がる俺の頭に拳骨一発振り下ろし、 男は手元の本へとまた視線を戻した。 体中あちこち疲れていたので、俺は反論せずに黙った。 するとあいつは何だ珍しいなと言った。 むかつく。 「そういえば最近気づいたんだが」 「なに?」 「お前絵なんか書くんだな」 ごん、と思わずソファに頭をぶつけて俺はあいつを見た。 一方のあいつは何時の間にか、 片手に古びたスケッチブックをもってにやついている。 「中々上手かったぜ」 「み、見んなよ!どうせ、下手だし」 「おやおや、お前が謙遜なんて珍しいな」 にやり、と苛立ちを覚える笑みを浮かべた男は、 再び手元の本へと視線を戻した。 背後にあるスケッチブックを持って、俺は慌てて部屋を出た。 部屋を出て、自室に向かい、それを棚にしまった。 「ああ、夕飯よろしくなー」 「あんた手伝えよ!」 ****** 悪ガキみたいなヴァンと暢気なバルさん。 ヴァンは原作に近づけるのが目標だ…!!! No.86 - 2007/04/06(Fri) 17:20:18 ********* 何てことは無い ちら、と出窓から景色を伺い、 外が快晴だと知ると、ヴァンは祈るように目を閉じた。 普段ああだこうだ煩く叫ぶ彼にしては、今日は随分大人しくしている。 その理由は決して油断の出来ない、今隣で眠っている男の怪我だった。 二日前、酷い怪我を負った、と寝ているこの男は、一筋の血を流して呟いた。 自分で止血したのか、問題の怪我からはあまり出血はしておらず、 ヴァンは直ぐにエリクサーの瓶を彼に差し出した。 これが別れではないから、ヴァンは涙は一粒しか流せなかった。 随分前に、唯一の肉親である兄を亡くし、希望が無くなり、 思えば長い年月が経つのである。 その腕はかつてのように無邪気にガルバナを摘むことは出来ず、 また、その口も無理をして笑う他なかった。 ただ一つだけ、空賊になるという夢物語を頭にぽっかりと浮かばせることで、 憂鬱さや苦痛を誤魔化すことは出来たものの。 赤黒い染みが浮き出ている包帯をするすると器用に解き、 真新しく届いた包帯を巻いていく。 怪我をしたのは左肩の前方辺りで、 大きかった刃傷が今はうっすらと横一文字にあった。 昨晩飲んだエリクサーの効果は、着実に効いている。 後は回復魔法やら薬やら、そして怪我人自身の自然治癒力で治していく。 「バルフレア」 ヴァンが小声で囁いても、彼は起きず、 (傷が痛むはずなのだが、)気持ち良さそうに寝息をたてる。 何時かのあの日も同じだった。 自分の目前で、眠るように目を閉じた王者は、ゆっくりと息を引き取り、 彼を看取った自分自身もまた、安らかな終焉を迎え、ここにいる。 まだ、言うことはない事実が二人の間に横たわっているのだと改めて思い知らさせた。 認識しなければ、いずれ消える物だが、 認識すれば、お互いに相応な事情が生じてしまう、厄介な事柄。 言うわけにも行かず、言わないわけにもいかない。 どの道、自分はもう選んでしまっていて、数年もすれば彼も知ることだった。 「バルフレア」 声には出さずに呼吸だけで呼ぶと、その男は整った眉を顰めた。 ****** 長文練習その二。止まらない。 No.114 - 2007/07/12(Thu) 03:30:07 ********* 永遠を信じる男 「昔の奴らが言うには、空には永遠があるんだと」 「永遠?」 日差しを受けて色の薄くなった碧眼をぱちくりさせて、 青年は思いっきり空を見上げて、痛、と首筋を右手で擦った。 傍からその様子を見ていた男は、馬鹿、と 呆れと可笑しさを含んだ声でそれをからかい、慣れた手つきで青年の髪を掻き混ぜた。 飛空挺が発着するターミナルの側面にある機材置き場に立っているが故に、 男の表情はちょうど濃い影になっていて見ることはできない。 それでも、楽しそうに震える低い声音で男がどんな表情を窺い知るのは簡単だった。 「空の色は百年経っても同じだろう? だから空には永遠がある、といってたらしい」 「…俺はそう思わないけどさ」 「まあ、考え方は人それぞれだからな」 言いながら、近くにあった機材箱に座り、男は腕を組んで青年を見上げた。 一方青年はぼんやりと青空を見上げたままで手をかざし、 男の方を見ないで確信した顔をした。 「同じ色の空なんてないって、思う」 「なるほど。実にお前らしい答えだな」 「何だよ、子供っぽいっていうのか?」 機材箱からゆっくりと立ち上がり、 青空を青年と同じように仰ぎ見た男は、いや、と首を振った。 「思いもしない返答だと思ったのさ」 ****** バルさんとヴァン…だと思えれば幸い。 コンビ位の糖度低さが我がサイトの特徴です。orz 甘い小説なんて知らないぜ…! No.130 - 2007/08/13(Mon) 01:47:46 ********* 夏の君、冬の僕 じりりと首筋をゆっくり焦がす陽光の強さに少し眼を細め、 それでも手元を休めることなく作業を進めている。 他に何の音も聞こえない、静かな残暑の午後が、何より俺は好きだった。 時折部品や使う道具を交換して、メンテ用の設計図を指でなぞり、 再びメッキの塗られた翼へと向き直る、その顔も、好きだった。 作業の邪魔だとか、お前にはまだ早いと言いながら、 入り込む日差しと僅かにしか入らない風が立ち込めて暑い部屋の隅にいると、 ちらりと視線を送ってくれる。 もともと砂漠で暮らしているから、これ位どうってことないのだけれど。 それより、あんたの方は大丈夫なのかよ、と視線だけで言ってやった。 *** 曇空から土砂降りの雨が降り始め、仕方なく雨宿りをするとき、 そっと伏せる目が、やけに頭に焼きつく。 隣に立つ、その癖毛だらけの頭が近くなった気がして、内心で舌打ちをした。 全くもって、身体も頭も急速に成長しやがることで。 その内にちゃんとした「大人」の頭に切り替わっているのかもしれない と考えると、少し惜しい気もした。 跳ね返る雨粒で少し冷えた空気に寒気を感じ、 片手で腕をさする俺と、大きなくしゃみを一つした子供。 不釣合いな組み合わせに見える筈だというのに、 どことなく一番扱いやすく一番反応が分かりやすい単純さが落ち着くものだ。 ふ、と薄くため息を吐き、濃い灰色に染まった空を見上げる。 今日の空は如何やらどんよりと沈んでしまっているらしい。 ****** 夏と冬、ヴァンとバルさんの組み合わせいっちょうっ。 かなり性格とか行動パターンが似てると思いました。 おなかがもたれております。 No.135 - 2007/08/30(Thu) 22:07:17 *********