静穏な声音 アダムとアダムじゃ何も生まれないだろう、 不毛じゃないか さっさと諦めてくれればよかったものを ええ、そうですね でもね、考え方を変えてみれば違うようにもとれますよ 違うように? たとえばどんな アダムとアダムなら、ほら、エデンを追われることはない 愚かなことをすることもなく、楽園でずーっと暮らせます …愚かなことをしながら? まあ、そうなりますね こういう考え方もありますよ、 過ちを犯し、互いを殺しあう種族を増やさなくてすみます あんまり穏やかな話じゃないな そうですね なあ、だめなんだよ 君の気持ちは嬉しいが、それには応えられないんだよ 分かっていますとも それならどこかへ行ってくれ もっと苦しい思いをさせるかもしれないぞ この身体を縛る嫌な色の糸を知っているだろう お断りしますよ 大丈夫、全て分かっていますから なにが大丈夫なんだか ああ、もう知らないぞ、もう、知らない ええ、知らなくて結構です あとはこちらで適当にやりますよ 勝手にしろ No.565 - 2010/12/18(Sat) 02:31:21 ********* 心よ原始に帰れ 夢。 夢を見た。 いや、夢だったのか。 右手に、ナイフを。そう、手にナイフを持っていた。 そしてそれを、横一文字へと振りかざす。 ナイフの辿った奇跡から流れる赤、聞こえる悲鳴。 ナイフに赤が。流れ込む死。他人の命を感じる。 「ぁああああああ゛あああ!」 激しい眩暈が襲う。 口からは絶叫が絶えない、息ができない、 けれど、叫ばずにはいられない。 「あ、ああ、ああああ、」 世界の色が死んでいく。光も、闇も、全て消えていく。 視界が闇に沈む。上下の区別が付かない。 世界がぐるぐると回転し、 「死ぬつもりですか」 暗転。 …死ぬつもり、だって?  かすかに手の感覚が戻り、視界の端に他人が映る。 誰だ。誰だろう。とても懐かしい気がする。 家族ではない。 「あなたが死んだら、寂しくなりますね」 誰? 「友人です、あなたの」 …誰。 こちらに向かって伸ばされる手、その掌を見つめた。 傷だらけで強張った自分のものと違う。 かすかに見知った香り。ああ、そうだ、この匂い。 知ってる。 「帰ってきてください、もう一度あなたに会いたい」 どうして。 「会いたいから」 もうこのまま眠らせてくれ。 「だめです」 …どうして。 「あなたが  だから」 思わず、目の前に伸ばされた手をはじき返してしまう。 拒絶したわけじゃない。ただ、怖い。 「死ぬなんて、いつでもできますよ、ほら」 手をとられる。自分のものよりも少し冷えた手。 他人の肌の感触に、わずかに嫌悪感を感じる。 「あなたの手は血で濡れてる。…後ろを」 振り返る。地面に散らばる無数の血痕と、 一つだけ転がるナイフ。 ぎょっとした。これを、したというのか。 「…これを見ても死のうと思いますか?」 いいや。 そうだな、まだ、生きていたい。 「なら、目を開ければいい。生きるのは大変だが、あなたはそれができる」 音が戻ってくる。地面の感触も。 首筋を通る冷気に意識が一気に覚醒する。 空気を吸い込もうと肺が動くのを感じて、 生きていることに気づく。 目前の男から首に伸ばされた手に気づき、思わず苦笑した。 「どうでした、臨死体験は?」 「…最悪だよ」 ********* リビドー(生きようとする欲求) デストルドー(死のうとする欲求) 以上の対立を描こうと試してみた。 エツィオ視点、相手はレオナルド。 殺そうとしてたわけじゃなく、リンゴ使用後に 向こうから戻ってこれなかったんじゃないかと。 No.566 - 2010/12/19(Sun) 02:09:13 ********* 最強のアサシン 優しくて穏やかな眼差しと、己を慰める腕、 ゆるく微笑む口元がその人の象徴であるなら、 どうしてそれがマリアでないと言えよう? 私にとってはきっと、彼こそが。 *** 私の師は、生死に一番近いはずなのに、 そこから一番遠いような人です。 まるで心はもう既に死んでいるような。 そうです、あの人の眼差しは、いつも冷たく凪いでいるのです。 私共を見つめるその目は優しいのに、 命を断ち切ろうとする瞬間は、 どこまでも沈んでいくような、暗い沼のような目をなさる。 あの方は、一体、この世に何を見ているのでしょうね。 *** 己が犯した罪を忘れることはない。 幾ら避けていても、罪のない者達を手にかけたことはある。 数多の罪を被り、ありとあらゆるしがらみに 雁字搦めになっても、死ぬことは許されない。 死のうとも、思わない。 生き続けること、時代を静かに眺めて、 戦い続けることこそが己が運命だと分かっている。 大丈夫、この心はずいぶん前に枯れ果てて死んでいる。 もう、悲しみに足をとられることはない。 (俺は象徴化され、俺でなくなる) せめて、この命が尽きる時は、どうか、 一人の人間として、この世を去れますよう。 ********* 歳を取れば取るほど伝説の存在になっていくエツィオに、 得体の知れない“哀れみ”のような感情を感じます。 そして、その感情を感じる度、 「ああ、私は本当に人間としてのエツィオを愛してるんだなあ」 と実感する。 エツィオの人生は、すでに25、6の時点で終わっていて、 その後の人生は「アサシン」としてのものだったと思います。 Bhでのエツィオの異常な冷淡さを見ていてそう思い、 あまりにつらくてつらくて暫くは小説書けませんでした。 No.570 - 2011/01/05(Wed) 01:55:29 *********