※ブラック・ドッグ(黒犬)のデスコールと、ラノン・シーであるレイトン先生。
一般人のルーク少年とレイトン先生は同居していて恋人同士。
それでもいいなら下へどうぞー




「先生、もう止めましょうよ。先生の方が壊れてしまいます」
「だめだよ。止めてはダメなんだ」
「どうして…」
「私にとって、文章を書くのを止めることは死ぬことと同じなんだ。文章を書かなくなったら私は死んでしまうよ」
「そんな…。なにか、何か抜け出す方法はないんですか?」
「外を見てごらん」

窓の外は美しい庭が広がっている。
ルークはたちまちその景色に見入った。
レイトンは尚もタイプライターで何かを打ち出しながらも続ける。

「あの庭の中に、一本だけ正しい花がある。それを見つけ出してこのタイプライターの横にある花瓶に差してくれ」
「正しい花、と言われても分かりません。それはどういう花ですか?」
「美しくて残酷で、とても無垢な花だよ。私のことを一番理解する者だけが見つけられる花だ。 ともかくその花を持ってきて、そこの花瓶に入れてくれたら、書くのを止められるだろう」

ルークは書き続けるレイトンに一礼すると、すぐさま窓から庭へ飛び出した。
庭は美しい花や木々がたくさんあったが、どれも残酷な部分は持っていないことが分かる。
とぼとぼと広大な庭を歩きながら、ルークはあちこちを探して回った。
やがて太陽が頂点へ上り詰めるころ、やっとルークも異変に気付いた。

「た、太陽がない…!」

空は白い霧のようなもので覆われ、白夜のようになっていた。
気付けば、庭は一面雪に包まれた銀世界になり、赤い薔薇が雪の重みで折れる。
急がなければ、「正しい花」も枯れてしまうかもしれない。
ルークは勇気を奮い立たせ、大慌てで庭中を再び探し始めた。

「そこの坊や。君の探している花はこれだろう?」

青い薔薇の茂みから、一人の男性がそう言って、ルークに一輪の花を手渡した。
それは、棘のない、真珠のような色をしている薔薇。
ルークはそれを受け取り、男性を見上げた。

「どうして僕の探している花が分かるんですか?」
「私も彼を止めたい人の一人だからさ。…だが私にはもうあの窓はくぐれない」

ちら、と開け放たれた窓を見ながら男性は呟く。
その窓は大人でも通れる大きさだったので、ルークは疑問に思った。

「どうして?」
「私と彼は相容れないのだよ。私達の世界はあまりに違うので、私と彼は会ってはならないのだ」

気付けば、男性の足元には青い薔薇が群生しており、彼自身の手にも青薔薇が握られている。
ルークは不気味になって一歩男性から退いた。

「あ、あなたは一体…?」
「死を率いるものさ。…さあ、行きたまえ!彼を病から救えるのは君だけだ!」

男がそう言い終わるか否かの内に、ルークは慌てて窓の元へと走り出す。
雪原に足を取られながらも懸命に走り続ける後姿を、男は優しい目で見つめていた。


開いていた窓から部屋へと入ったルークは、持っていた花を花瓶へそっと入れた。
不思議な色をした薔薇は、萎れることなく凛とした姿で花瓶を彩っている。

「先生!先生!正しい花を花瓶にさしましたよ!」

レイトンもそれに気付き、タイプライターからやっと指を離した。
長い間打ち続けたために手が震えていたが、他には何の異常も無い。

「ああ、ルーク。これこそ正しい花だよ、よく見つけてくれたね」
「ちゃんと見つけてきましたよ。先生はもう書かなくて良いんでしょう?」
「勿論だよ。これでやっと彼を弔うことができるから」

弔うだって?
悪寒がルークの背中を静かに走った。
そして、思い出した。青い薔薇なんて、野生では育たないことを。

「この花は、死を引き連れるある男に私が捧げた唯一の花なんだ。 …でも私の心は昔と違って、君がいる。その所為でこの病が起こってしまったみたいだね」

白薔薇にそっと口付けると、レイトンは目の前で恐怖に震えるルークを抱きしめた。

「…でも、本当に彼が君を連れて行かなくて良かった。 君がいなくなったら私は死んでしまうから」


黒犬にラノン・シーは微笑む
黒犬=死を象徴する妖精の一種。触れたり言葉をかけた者は死ぬと言われている。
ラノン・シー=詩人や歌手に霊感と命を与える妖精。


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