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星の色がよく分かるほど漆黒だった空が、徐々に明るくなっていく。
天体観測をしようと思って、先生と二人、ある町に二泊三日の小旅行だ。
ロンドンじゃあ星空はあまり良く見れないから、空気の綺麗な町に僕たちは泊まった。
少し花の優しい香りがするふかふかの布団や、優しい雰囲気の部屋。
先生と僕は、天体観測をするまでのんびりとホテルで過ごした。
いつもは色々な場所に出歩くのだけれど、今回は敢えてそうしなかった。
研究室にずっと閉じこもっていた先生の顔色が少し悪そうだったから。
僕は知っているんだ。先生が時々、とても悲しげな目で夕焼けを見ていること。
でも本人に言ったら、きっと先生は無理をしてしまうから、絶対に言わない。
せめて先生が心を安らげるように、先生の好きな紅茶を入れたり、一緒にいる。
先生は僕の気遣いに躊躇っていたが、今はゆったりと静寂に身を任せている。
いつもなら「早く寝なさい」と言われるけれど、今日は徹夜の許可が出た。
深夜の町はとても冷えるから、二人で暖かい毛布に包まりながら、僕たちは空を見上げる。
「珍しいですね。いつもはダメなのに」と僕は先生に尋ねる。
「この町の夜明けの空はとても美しいんだ。だから、ルークに見てほしいと思ってね」
目を細めて先生はそう呟いた。
こういう時、ああ僕は特別な存在なんだと分かるから、僕はとても嬉しい。
毛布に包まっているから、先生と僕は仲良く肩を並べている。
真っ暗な闇にきらきらと瞬く無数の星はまるで黒い紙越しに宝石を見ているみたいだった。
「ルーク、眠くないかい?」
「大丈夫です。先生こそ寒くありませんか?」
「平気だよ」
日付はあっという間に変わり、それでも僕達はゆっくりと移動する星達を眺めていた。
やがて、ぽっかりと空いた黒い空の端がじわじわと青くなっていく。
夜明けがすぐ傍まで来ているんだ。僕はこっそり隣にいる先生を見上げた。
良かった、悲しい目なんてしていない。
それから暫くして、地平線の向こうに太陽が昇り始め、空は虹色に染まった。
先生の言っていた通り、とても綺麗で、幻想的な眺めが広がっていく。
僕は感嘆の証に、小さく驚きの声をあげた。先生はそれを優しい無言のままで見ていた。
「綺麗だね」
「そうですね、…レイトンさん」
いつも通りに「先生」と呼ぶのが躊躇われて、僕は咄嗟に懐かしい呼び方をした。
戸惑うかなと思って先生を見ると、先生がぱちりと目を瞬く。
やっぱり変だったかな。謝ろうか。
僕がそう思ったとき、先生は僕を優しく抱きしめてくれた。
部屋にいた時に移ったのか、あの優しい花の香りがする。
「…いつもありがとう、ルーク」
普段は恥ずかしくて言えないけれど、「愛しい、」なんて言葉はこういう気持ちを言うのかな。
僕は胸いっぱいにその香りを吸い込んで、先生にそっとキスをした。
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夜明け
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