僕がいたリビングは先生の部屋の隣にある。 廊下をそうっと歩いて、リビングのドアに近づいた時だった。

「ふ、ぁ…」

ベッドの軋む音と共に、先生の声がした。
もしかして起きたのかな。
気付かれないようにそっと先生の部屋をドアの隙間から覗く。

そうしたら、信じられない光景が広がっていた。
先生の寝室に、何故か別の男がいて、先生を押し倒している。 床には先生がいつも被っている帽子が落ちていて、よく見ると先生の服も落ちていた。

「止め、てくれ、…!」
「今この状態で止める?それは無理な話だ、エルシャール」
「ぅ…、ああ、ぁっ」

僕は目を疑った。いつもとても優しくてかっこいい先生が、喘いでいた。
それも、ベッドに、あの男によって押し倒されて。
シーツの上に投げ出された足が、時折ぴくりと動いている。

「こんな、ところ…、ルーク、に見られ…たら……ッ!」
「その時は見せ付ければいいじゃないか。君はこんなにも淫乱で浅ましい男だと」
「あっ…く、ぁ……。ルー、ク…頼む…こない、で…」

両足を開くように先生へデスコールがのしかかっていた。
僕が家に来ていることを知って、必死に声を押し殺す先生は、とても艶かしくて、綺麗だった。 こんなことを思うなんて無理やり犯されている先生に失礼かもしれない。
でも僕は、本当に綺麗だと思った。
普段あまり日に当たっていない所為で少し色白な体は少しだけ赤くなり、顔はもう快楽に蕩けきっていた。 それに、潤んだ目と、上気した頬がとても色っぽくて。

「健気だな。…そんなにまであの子供が大事か?」
「ルーク、は…私の助手、だから……」
「なら大人しく喘げばいい、エルシャール。君が私を楽しませてくれるなら、ルークには手を出さないさ」

ギシ、とベッドが軋む。立ち尽くしてしまった僕を、ちらりとデスコールが見た。
仮面の奥にある目が、しっかりと僕を見ている気がする。

(…き、気付かれた!)

僕はすっかり慌てて、とっさにドアから離れて、壁に張り付いた。
先生は僕を守るために我慢していたのに…。 これじゃあ逆効果だ!

「覗き見とはいい趣味をしてるじゃないか、ルーク」
「!!」
「…ぇ…っ?」

デスコールは先生を押し倒したままで、僕に語りかけた。
乱れた呼吸のまま、小さく先生が驚いたような声をあげる。

「そんなところにいないで、出てきたらどうだ?…今なら特等席を用意しよう」
「…ルー、ク…、こ…ないでくれ…!頼むから…!」

どう、しよう。喉が、からからに乾いていた。
本当は先生の言うことを聞いて、早く逃げた方がいいんだ。
でもこのままだと先生が…デスコールに…。
大好きな先生があんなことをされたら、黙ってられない。

僕は意を決して、ゆっくりと先生たちのいる部屋に足を踏み入れた。

「ぁ、…どう…して…」
「僕…大好きな先生を置いて逃げるなんて、できません…!」
「ルーク……」

先生は悲しそうな、ほっとしたような表情で僕を見た。
散々泣かされたのか、目元が真っ赤だ。
でも、僕を他所に、デスコールは先生を再び組み敷いた。

「そこで見ているんだな、ルーク」
「あ、あぁっ!ルーク頼むからッ…、見ないで、くれぇっ!」
「せ、先生…っ!」

デスコールは僕に見せ付けるように先生の中を犯し始めた。
悔しい…!やっぱり僕にはなんにもできないのか。
一番大好きな先生が目の前で苦しんでいるのに…!

「見ないで、くれっ…頼む、からあっ!」

本当は言葉を発するのも難しいのに、先生はずっとそう言っていた。
僕に喘いでいる姿を見せないように、必死に我慢して、目を強く瞑っている。
その姿が痛々しくて、僕は手で両耳をふさいでしゃがみこんだ。
…先生。ごめんなさい。僕の所為で……。


***


しゃがみこんだまま目を閉じ、耳をふさいでいたら、いつの間にか、行為は終わっていた。
どこにもあの男の姿はなく、先生がぐったりとしてベッドに横たわっている。
行為に疲れ果てたらしく、どこか悲しげな顔で先生は目を閉じていた。
恐る恐る僕が先生に近づくと、先生は僕を見上げ、無理やり笑みを作る。

「…もう大丈夫だよ…ルーク…」
「せん、せい…」
「すまなかったね、怖かっただろう…?」

先生は今にも泣き出しそうな顔で、僕の頭を撫でてくれた。
一番辛かったのは先生のはずだった。
それでも先生は、僕を安心させようと頑張って笑っている。
目尻に溜まった涙を我慢しながら、僕は先生に抱きついた。

「ルーク…?」
「ごめんなさい、僕…先生を守りたくて…」
「いいんだよ…。ありがとう…、君がいてくれてよかった」

やんわりと先生は僕を抱きしめて、ぽろぽろと涙を流した。
僕もつられて涙が出てきて、先生の裸の胸に顔を押し付ける。

「大好きだよ、ルーク」

そう言った先生は、優しく微笑んだ。

救いようもない愚者は誰だ

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