先生は今日も机に座り、じっと化石と睨めっこをしていた。 実は講義とか、ティータイムの時以外はずっと三日前からずっとこの調子なんだ。 よっぽど興味があるのかな、と思う。レイトン先生は有名な考古学者だから。

「すまないねルーク、あともう少しで終わるから」

手持ち無沙汰にしていた僕に、レイトン先生はそう声をかけてくれる。
今日は講義がない日だから、この後は先生と一緒にロンドンを散歩するんだった。 僕は化石に向けている集中を欠かないように、「はい!」と返事をした。

(それにしてもこのソファ、気持ち良い)

このソファは、先生がたまに研究室に泊まる時に使っている。
大してフカフカではないんだけど、とても安心できるのが不思議だ。 真剣に化石と向き合っている先生の後姿を見ながら、僕はソファに寝転がった。

暖かい色のソファからは、紅茶の匂いがした。 きっと毎日先生がこのソファに座って紅茶を飲んでるから、匂いが移ったのかもしれない。

(そういえば…先生はよく紅茶を飲んでるけど、先生も紅茶の香りがするのかな?)

もう少しで終わるって先生は言ったけれど、きっといつものことだから、もっと時間がかかる。 僕は鞄から手帳を取り出して、少し自分でナゾを作ってみることにした。


「終わったよ、ルーク。今すぐ出かけられそうかな?」

暫く考え込んでいると、いつの間にか先生がソファの背もたれに手をかけていた。

「はい!行きましょう、先生」

僕は急いで手帳を鞄にしまって、コートを羽織った先生のあとをついていく。
その時、鼻先をよく知っている匂いがかすめた。

「あれ?」
「ん?どうしたんだい?」
「あっいえ…先生から紅茶の香りがするなあ、と思って」

僕がそう言うと、先生は「そうかな?」と言って少しだけ首元を嗅ぐ。
思い出した。さっきの匂いは、先生の好きなブレンドの紅茶の匂いだ。

「本当だ、ちょっと匂いが残ってしまったようだね…」
「僕はこの匂い好きですよ」
「ふふ、ありがとうルーク。さあ、いこうか」

手をつないで僕たちは大学を後にする。
あまり言ったら気にするだろうと思って言わなかったけれど、実は一緒に歩いてる時も紅茶の匂いがした。 紅茶の匂いがするなんて、なんだか先生らしいな。
僕はちょっぴり嬉しくなって、先生の手を少しだけ強く握った。

あなたの香りは紅茶の匂い

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