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彼の研究室に置かれたソファに座りながら、私は隣に座る彼に小さな箱を差し出した。
ティーカップに口を付けようとしていた彼はそれに気付くと、怪訝そうな眼差しで私を見る。
「プレゼントだ。受け取るといい」
そう言ってずい、と彼に押し付ける。 こうでもしないと、物にあまり執着しない彼は見向きもしない。
深い紺色の箱を開けて、中を見ると、彼は少し驚いた顔をした。
普段は全く表情を見せない目をきらりと瞬かせて、中にあった石が彼の手で取り出される。
「偶然手に入ったのでね。珍しい石なんだろう、エルシャール?」
なかなか心を開こうとしない彼にしては、珍しく私からの贈り物を気に入ってくれたようだ。
大事そうに両手に乗せて、彼は先程からずっとその小さな石を見つめている。
喜んでいるようで、安堵しているような、優しい眼差しで。
「ありがとう、デスコール」
「今度の贈り物はお気に召したかね」
「…ああ」
彼に送ったその石は、はるか外国で一部の地域でしか採掘できない希少な物の一つだ。
入手できたのは本当に幸運だったと言うしかない。
手に入れるためには骨が折れたが、今こうして素直に喜ぶこの男が見れたのだからよしとしよう。
光を受けて鈍い輝きを放つ石を、余程気に入ったのか慎重な手つきで彼は元通り箱にしまった。
紺色の箱をそっと閉める手を、さり気なく見下ろしてみる。彼の手は紺色に映えて綺麗だ。
そのプレゼントの箱を彼はゆっくりと鞄にしまって、私へ向き直った。
「ずっと前からあの石が欲しくてね…。こうして君から貰えるだなんて思わなかった」
「なるほど。それで君はそんなに嬉しそうにしているのか」
「そんな露骨に嬉しい顔をしていたのかい?気付かなかったよ」
どうやらあの小さな石は、彼の私に対する心象をだいぶ改善してくれたようだ。
彼は照れたように微笑み、「ありがとう」と私に心底幸せそうな笑顔で言った。
無防備な彼を見る為にも、あの小さな石のような、彼が喜びそうな贈り物を用意しなければ。
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標本ごと愛する彼
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