目を開けると、意識を失う前と寸分も変わらない景色が広がっていた。 乱れたシーツの上で、ぐったりとしている私と、どこか沈んでいるような男。 どうやら、絶頂を迎えて、意識を失ってからまだ数分程度しか経っていないようだ。

仰向けになったままの体をぐるりと回転させ、シーツの上でうつ伏せになる。 この体勢のままで寝たくはなかった。どうせあの男が勝手に処理してくれるにだろうが。 力の入らない下半身をなんとか両腕で支え、ベッドの向こう端で座り込む男を見上げた。

「目が覚めたか、エルシャール」
「……」

男はまるで情事など無かったかのように、すっかり元の通りに服を着ていた。 穢れとは無縁だといわんばかりの姿に比べると、ベッドに横たわる私が惨めに思える。 じわり、とあの場所から何かが零れだす感覚を感じながら、私はじっと黙った。 何を言っても、今の男には適いそうにないと思ったからだ。

「しかし、残念だよ、エルシャール」
「…?」
「…君はあまり乗り気でなかったようだ。熱が冷めてしまったよ」

自分から襲っておいて、よくそんなことが言えたものだ。
やっとの思いでベッドの上に座り込んだ私は目を逸らした。 最初もそうだったが、今回は私は同意したわけではなかった。 目の前にいる男は私を暫く見つめた後、口だけの笑いを浮かべる。

「さあ、用が済んだら出て行ってくれ」

私が動けずに座り込んでいるのを知った上で、そんなことを言うだろうとは、分かっていた。
分かってはいたが、言葉は思いのほか、私に深く突き刺さった。
どうして、無理やりに行為に巻き込まれた私がそんなことを言われなければならないのか。 滅多にあることではないが、頭のどこかでなけなしの理性が切れたのを感じた。

幸いなことに、微笑を浮かべる男は、ベッドから離れているとはいえ、まだ私の両手の届く範囲にいる。 ちょっとした反撃を食らわせるにはちょうどいい。

「…何なら君をその気にさせてみせようか、デスコール?」

ぐい、と強く男の襟元を掴む。力任せに握り締めた所為で、服に皺が寄ってしまうが、気にしていられなかった。 仮面の奥で、男がわずかに驚愕したのを腕で感じる。この男でも驚くことがあるらしい。

「何をバカな…」
「冗談のつもりじゃない」

かなり骨が折れたが、そのまま男を自分の方へと引っ張った。 男はあまりの力によろめいて、ベッドに膝をつき、私を呆然とした顔で見た。 互いの息がぶつかるほど近い位置になるまで、私は男に自ら近づいた。

「君のを咥えたって構わないよ?」
「なっ…」

私の方から反撃に出ることを、男は予想していなかったようだ。
そのことに少しばかり得意気になった私は男に口付けた。 夜明け前に触れた唇は少しばかり冷めていて、熱い舌との温度差がよく分かる。

「君は…私にこんなことを言わせるつもりかい…?」

我に返った男は、私の肩を掴んで、無理やり私を押し倒した。
まるで焦っているような仕草がどことなく可愛らしく感じて、私は微笑んでいた。 この男に可愛いなんて感想を抱くなんて。私も遂に落ちてしまったのかもしれない。

「…おいで、デスコール」

折角しっかりと来た服を脱いだ、哀れな男の仮面と顔の輪郭を手で撫でてやった。

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