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乱暴に床に押し倒され、彼は喉の奥で小さく呻く。
いつも被っている帽子がとん、と軽い音をたてて彼の頭からずれ落ちた。
真紅と黄土色の模様が鮮やかな絨毯に、彼の髪はよく映えて美しい。
「デ、スコール…!」
私はその光景と、どこか怯えてるような怒っているような彼の目を見つめていた。
最初から危害を加えるつもりがないと分かっていたからか、彼は抗う様子を見せない。
ただ、悪戯をした子供を叱るように、私の名を呼んだ。
「ああ、すまない、レイトン。少し痛かっただろう?」
そういえばあの時、戸惑いながらずっと私を見ていた目を一瞬だけ顰めていた。
床に倒れこむと同時に、彼は体のどこかを軽くぶつけてしまったらしい。
上半身を起こそうとする彼の右肩を無理やり床に縫いつける。
「…っ」
「右肩をぶつけてしまったのか。かわいそうに」
突如として襲った痛みに右目を瞑った彼は、じり、と私を睨みつけた。
今まで顔やその体に触れても表情を微妙にしか変化させなかった彼にしては、
はっきりとした怒りを示している。少しばかり彼の逆鱗に触れてしまったか。
「君は、本当は、私のことをかわいそうだなんて思っていないだろう?」
「そんなことはないさ」
唇に、鼻に、首に接吻をしながら私は彼に弁明した。
彼はやはり、最初にこの部屋に入った時と同じような顔をしている。
そして私を説得するのを諦めたかのように、ふっと彼は視線を逸らした。
「愛しているよ、エルシャール・レイトン」
彼は何も言わず、私の顔の輪郭をゆるやかに右手で撫でた。
「君の好きなようにしてくれ」
もう誰にも愛されたくないんだ。閉じられた目と声がそう言った。
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彼は笑わない
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