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その日の彼は、彼らしくなかった。だらん、とベッドの上に寝そべり、伏し目がちになっていた。
勢いがほとんどとはいえ、よく情事に及んでしまっているベッドの上で、彼は午睡を楽しんでいた
部屋の隅にある大きな窓から入る陽光を浴びて、気持ちがいいのか目を細めている。
お互いにその気がないときはさしてやることもない彼は、大抵この部屋にいてこうしている。
ゆったりと過ぎる時間と、僅かな倦怠感を感じながら、私は一冊の本を読もうと手に取った。
表紙をめくり、読み始めようという時だ。彼はふと何かを思いついたような顔をした。
「好きだよ、デスコール」
唐突にそんなことを言われて、一瞬、本をめくる指を動かすのを忘れてしまった。
いつもの彼なら、愛情表現に使われる言葉は滅多に言わない。
だからこそ、その言葉は私にとって、まるで空から降る爆撃同然だった。
「…エルシャール?」
ベッドに寝そべる彼から見て私は逆光だ。私の表情を見ようと彼は眩しそうに目を細めている。
まだ一度も素顔を見せたことのない私を…正確に言えば私の仮面を彼は愛しいのだと言った。
我を忘れた哀れな私に、彼は微笑で後押しした。
「好きだよ、」
二回目に言われて、はっとした。確かに彼は愛情表現のために言葉など言わない主義だった。
普通、愛しい人間に対して言う言葉は、そんな軽い、小鳥のような可愛らしいものではない。
サイドテーブルに本を置き、気だるげに寝転がる彼に私は寄り添うように近づいた。
彼は羽の傷ついた小鳥を慈しむような目で私を見てくれている。
「ジャン、好きだよ」
拒絶を感じない彼の言葉は、私の喉を通り、心臓へすとん、と落ちた。
きらきらと光る陽光を反射する彼の目を愛しいと、そう感じた。
(あまりに愛しすぎて彼は愛してるだなんて言えなかったのだろう)
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愛してるだなんて
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