闇を走る 悲鳴と怒号が、近くの広場から聞こえてきた。 静かな、風もない夜。街の人々は何事かと首を傾げる。 …路地裏で佇む一人を除いては。 「あ、暗殺だ!!殺されたぞ!」 「嘘でしょ!?暗殺者なんているわけないじゃない…!  嫌よ!死にたくないわ!」 「に、逃げるんだ!こっちに来るぞ!」 パニックに陥った群集をかきわけ、 その人物は道の真ん中へと躍り出る。 黒いフード付パーカーに、紺色のジーンズ、 ありふれた服装をした青年だった。 目深に被ったフードから見える鼻と口元がどこか幼い。 「そっちへ行った!追いかけろ!」 青年が道の真ん中へ出ると同時に、 後ろから走って現れたのはもう一人、似たような格好の男。 遠くから数人の男が追いかけてくるのが青年にも分かる。 彼は走り寄ってきた男の肩を励ますように叩くと、すぐさま走り出した。 「間抜けどもが!俺はこっちだ!」 男が大声をあげ、人混みが彼を覆い… 消えた。 いや、正確には消えてはいない。 群集を巧みに利用し、低い家の屋根へとあっという間に移動したのだ。 当然、追っ手が追うのは、青年の方である。 背格好も服装も走り方も似ていれば、区別する方法などない。 喋らなければ、青年が暗殺者ではないとは分からないのだから。 「アサシンを逃がすな!」 わっと走り出した追っ手の道を、 しかしパニック状態の群集が阻んでいる。 そのことを立ち止まって確認すると、青年  …ノエルはにやりと笑みを浮かべて 全速力で夜のロンドンを駆け抜けていった。 全ては、安全と平和を取り戻す行為。 ロンドンにはアサシン(暗殺者)がいるのだと、 そう思い知らせる為でもある。だがそんな事はどうでも良かった。 今はとにかく追跡を撒かなければ。 青年の行き先は明かり一つない暗闇だったが、 臆することなく彼は走り抜けた。 ********* ヴァンとアーネストがアサシンというとんでもなパロディ。 「アサシンって何ぞや?」と思った方は、 アサシンクリードで調べれば大体分かってもらえるかと。 ようはアサシンクリードパロディですね分かりまs(ry No.508 - 2010/04/08(Thu) 10:03:56 ********* 非戦闘の蚊帳 仲間が返り血を浴びて帰ってくる時、 ノエルは知らず知らずの内に唇を少し噛んでしまう。 死への恐怖か、それとも隠れていた凶暴性の表れか。 あまりにも身近になり過ぎた死は、 もはや生とほぼ等しいのかもしれない。 「どんな感じなんだろう、殺すっていうのは」 突然物騒なことを尋ねたノエルに顔を向けると、 アーネストは眉間に皺を寄せた。 彼が嫌なことや苦手なことに出会うとよく浮かべる表情だ。 数秒黙りこむと、何かを決意したように、 若き暗殺者はっきりと言い切った。 「暗殺なら、殺すことは思った以上に簡単だ。  大した抵抗も断末魔も上げられず、相手は死ぬのだから」 「銃であっても?」 「銃であっても。的確に急所を狙えばの話だけどな」 仮面を失い、素顔を曝け出すようになり、終いには 人殺しにまで手を出すようになった境遇をアーネストは悔いた事は無い。 ノエルは天を仰いで目を閉じた。 「僕は戦闘に参加することは出来ない。  直接人を殺すこともしないし、見ることも殆どない。  …でも時々思うんだ」 自分たち非戦闘員が待機している時、 暗殺者は一体どんな気持ちで標的を暗殺するのか。 そこに何の迷いも哲学も存在しないのか。 考えなければ良いことを考えてしまうのは、ノエルの悪い癖だ。 アーネストはパーカーの裾に隠してあるナイフの剣先を確かめながら ノエルを見た。 「俺はいつもお前が無事に逃げ切れるかどうか考えてるよ。  お前が捕まったら全てが台無しになるからな」 ノエルは何も言わずに顔を上げたまま。 暗殺が今日行われるなど嘘のように美しい快晴の空模様が広がっている。 日常が隣り合わせの場所で繰り返されているが、 二人はその裏の世界にいる。 「諜報員がいなければ、暗殺者は動けない。  しっかりしてくれ、ノエル」 それだけ言うと、アーネストは再びナイフの手入れをし始めた。 暫く目を閉じていたノエルだったが、 数分それを見つめた後、仕事場へと戻っていった。 ********* アーネストは白パーカー+黒いズボン。 暗殺する時は集中してて何も考えてないのかなーと。 そして再びアサシンパロディという(´`;) No.509 - 2010/04/08(Thu) 15:58:06 ********* 最後の良心が涙する どうして人はこうも簡単に死ぬのだろうか。 どうして悲劇は繰り返されるのか。 どうして、どうして。 考えれば考えるほど悲しみと愛しさは増していく。 これが世界なのだ、これが真実なのだと。 虐げられて死んでいった者達へ、 泣き声も無くぼろぼろと涙を流すくらいしか自分には出来なかった。 悲しいのではないし、別れが辛いというわけでもない。 ただただ、世界はあまりに無情で美しいと思い知った。 ああ、世界はこんなにも愛しい。 ********* それがノエルが戦うことを決意したきっかけ。 No.510 - 2010/04/08(Thu) 16:18:35 ********* フードの可能性 素顔を隠すものがないと落ち着かないだなんて。 君は大人だし、男なんだから、隠さなくても。 ロンドンを離れた代償として仮面を失ったアーネストに、 ノエルはにっこり笑った。 目元の傷はだいぶ治りつつあるが、顔を隠す仮面はもうない。 それでも顔を晒すのを躊躇うので、 ノエルも困ったように眉を顰めた。 「僕はアーネストの素顔も好きだよ?」 「いや、ああ、まあ、ありがとう。だけど顔を出すのは辛い。  知り合い以外に顔を見られるのが嫌なんだ」 人と話すことが苦手なのもあるのかもしれないが、 アーネストはあまり他人が好きではない。 勿論、ノエルや彼自身の家族といった知り合いは平気なのだが。 「でも、仮面で顔を隠すのは逆効果だと思うよ…」 「…どうにかならないか?」 「どうって言われても」 先週にロンドンから命からがら逃げてきたばかりで、 二人の持ち物は少なかった。 顔を隠せる物なんて当然持ってきていない。 他の住民に紛れる為の服装なら幾らでもあるが。 ふと、ノエルの視線が一着の服を見て止まった。 とある人物の服装を真似るまで着ていた、 お気に入りの黒いパーカーだ。 普通のパーカーよりもフードが大きく、 目深に被れるのを気に入っていた。 「…フードはどうだろう」 「フード?」 「僕が使ってたパーカー、  フードが大きくて顔の半分が隠れるんだよ。…ほら」 アーネストの目の前で黒いパーカーをさっと着て、 フードを目深に被ってみせる。 すると、 それまで不機嫌そうだったアーネストの口元に笑みが浮かんだ。 「…フードで決まりだ」 後日、 二人はノエルの実家まで、大きめのパーカーを取りに行った。 ********* 仮面がなければフードで隠せばいいじゃない。 アーネストはノエルよりも少し背が高いので、 黒いパーカーじゃあサイズが合わなかったんです。 No.511 - 2010/04/12(Mon) 20:21:10 ********* 夜鷹 その男は、夜空に白い光を放つ月をじっと眺めていた。 白いフード付きパーカーに、使い古したジーンズが彼の仕事着だ。 そして彼の仕事は大抵、夜に行う。 ふと、遠くから口笛の音がすると、 男は躊躇わずに立っていた屋根の上から身を躍らせた。 その身体が重力に攫われる前に、すばやく隣の屋根の上へと飛び移る。 そしてそのまま、軽やかに屋根から屋根へと飛び移っていく。 *** 勿論、彼もノエルも、アサシン、なんて職業を聞いたことは無かった。 …七年前までは。 七年前、二人はある事故に巻き込まれた。 アーネストは右目付近を負傷し、ノエルの心は深く傷ついた。 互いに傷ついた彼らは、世界を裏から見守る「組織」の存在を知る。 最初はノエルだけが組織に携わっていたのだが、 次第に彼も組織に関わるようになった。 彼には、特に崇高な目的も、見つけ出したい真実もない。 ならば何故組織に属するのか。 答えは単純だ。 唯一無二の親友を死なせない為だけに、 彼は組織に関わることを了承したのだった。 *** 人通りの少ない路地に入り込んで辺りに人がいないのを確認した後、 彼はその場所に置いてある花のワゴンへと近寄った。 一見、何の変哲もない花びらの山。 その手前へ行き、わざと山から背を向けてからぼそりと呟いた。 「…遅くなって悪い。無事か、ノエル」 すると、山が少し動き、花びらの山からノエルが飛び出た。 黒いパーカーにたくさんの花びらがくっついているが、外傷は見られない。 「ちょっと足を捻ったけど、平気さ」 「捻っただって?」 「追われてる時に、うっかり。…それより首尾は」 ノエルは肩をすくめて苦笑すると、 瞬時に組織の構成員としての態度を取り戻した。 意外と鋭い目元と射抜くような眼差しが相まって、まるで別人のようだ。 「成功だ。他の仲間も皆逃げ果せたらしい」 「そうか。良かった」 「俺達も逃げよう、長居は無用だから」 アサシンとしての教育を受けていないノエルは、 一人では建物を登ったり、屋根から屋根へ飛び移ることはできない。 だから逃亡の際はこうしてアーネストと共に行動することになっていた。 「ありがとう、アーネスト」 先に屋根へ登った後、 気遣うように伸ばされた手を掴みながらノエルは微笑んだ。 夜明けは近い。 急いで帰らなければならないことを、ぼんやりと自覚しながら。 ********* 私だけが楽しいアサシンパロディ。 パルクールやフリーランニングを出来るアーネストに 手伝ってもらって逃亡するノエルを書きたかったんです。 建物から建物へ飛び移ったり、 でっぱりを掴んで壁を駆け上ったりするスポーツをパルクール、 もしくはフリーランニングと言います。 パルクール等はとても難しく危険なので、絶対真似しちゃ駄目ですよ。 No.520 - 2010/04/25(Sun) 01:55:55 *********