殺人鬼に薔薇を 花瓶に活けてある薔薇にはちゃんと意味がある。 それを理解しているのは、きっと数人程度。 それでも花を活けるのを止めたくはなかった。 ある日、いつも通りに庭から摘んできた薔薇を数本抱えて 廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。 「今日の花言葉は何にするんだい?」 振り返って見ると、黒いコートに身を包んだ優しそうな男性が立っていた。 顔立ちが少しだけ父に似ていると思った。 彼はこの屋敷で花言葉に精通している稀有な人物の一人らしい。 「今日は野バラにしようと思ってるの」 「野バラ…優しい心?」 「そう。今日は何だか、皆暗い顔だから…」 男性は数秒驚いたように目を見開き、それからすぐに微笑んだ。 それを見て、ふと気付いた。 いつも見ている、形ばかりだけじゃない笑みがある。 「あの…良いことでもあったんですか?」 「一つくらいはあったかな。…少し貰ってもいいかい?」 抱え込んでいるバラ達には棘がないので、そっと彼の前に差し出した。 室内の装飾用だったり、料理の飾りつけようだったり、 色とりどりの薔薇が揃っている。 彼が選んだのは枯れた白と瑞々しい赤。 「これは、君に」 彼は赤い薔薇の葉を一枚ちぎり、私の前に差し出した。 赤薔薇の葉の花言葉は、確か…。 「…貴女は希望を持ち得る」 「ありがとう、ハーシェル」 紳士的に差し出された手から、葉っぱ一枚を受け取る。 彼はそれを見届けると、二輪の薔薇を持って部屋へと戻っていった。 「……枯れた白い薔薇の花言葉も、知っているの?」 重々しい扉から返答はなかった。 ********* 教授は赤い薔薇はおまけで持っていっただけ。 枯れた白い薔薇の花言葉は…いつか小説内で分かる時がくるかと。 No.462 - 2010/02/01(Mon) 20:36:26 ********* 狂気の中でだけ聞こえる歌 頭から離れない歌がある。 初めて重罪を犯してしまった時に突然閃いた歌だ。 可愛らしい少女の声がそれをなぞる。 翼をもがれて 地に落ちる鳥よ 静かに眠れ 痛みが消えるように 一度その歌を認識した後、 再びトリガーを引く度に決まって歌が戻ってくる。 何故かは分からないが、この歌を聞いている間は安らいだ。 「つばさを、もがれて・・・」 (血に塗れていても、こんなにも心は暖かい) *** それは狂気の中でしか歌えない聞けない儚く残酷な歌。 そのことを、彼はとっくに見抜いていた。 ****** 精神が不安定じゃないと気づけないこともある。 No.465 - 2010/02/02(Tue) 20:16:56 ********* 無題 (意味不明の練習) 生まれ出る苦痛がまるで星のように降り積もるので、 私の体は黒く黒く染まってしまったのです。 好きで黒くなったわけではありません。 ふと気付いたら、辺り一面が真っ黒に染め上がっていました。 あれは、悪夢だったのに違いありません。 *** 何も考えず、思い浮かんだフレーズだけで一つ。 悪の教授を抽象的に書いてみたシリーズ。 No.501 - 2010/03/18(Thu) 03:30:15 ********* 血塗れの人へ捧ぐ歌  その人が歩く道は真紅の道 他人の嫉妬と苦しみと痛み、様々な想いが交差して  その人が浮かべる笑みは無感情な慈悲 胸の内は苦しくて仕方ないのに、口元歪めて 愛しいあの子は 今どこへ? 彼は呟く、一人寂しく、ある墓の前で 愛しいあなたは 今どこへ? 私は尋ねる、貴方の後ろ、嘆く貴方へ どんな歌も どんな曲も どんな名画も どんな物も 彼の心を 動かしはしない 止まった命を 蘇らせはしない 嘆け 苦しめ 恨め 私を 怒れ 恐れよ おいで 地獄へ 彼は導く、人を操り 悲劇に涙し、心を殺して ああ、貴方の求めるものは何なのだろう? 死ぬよりも苦しい思い 愛しい子との別れ それでも渇望する 愛しい人の復讐を 怒れる賢者の裁きを どんな歌も どんな笑みも どんな声も どんな者も 彼の心を 救いはしない 疲れた身を 助けやしない 望むのは復讐、誓うは呪われし契約 神よ、どうか救いを 愚かな賢者へ救いを 開放を目指し、面影に焦がれて まだ壊れて欲しくないと 自分を殺せと 呪文のように彼は愛しき子供に囁く… 愛しているなら殺しなさい それが君の使命 それが私の願い 大切な物を守るため ああ、彼こそ一輪の薔薇 血に塗れて美しく咲き誇る復讐の華 ********* ブラッディ・ラブへ捧がれ、 心動かすことない彼に終始歌われた歌。 No.514 - 2010/04/18(Sun) 22:14:28 ********* 賢者と奇人、巡り会い 「ああ、こうして君と会うのは何年ぶりだろうね」 「何年ぶりでしょう…忘れてしまいました。  何せ“忙しかった”ものですから…」 「ふふ、そうだね。私も忙しかったよ、色々と」 「終幕へ向かい、墜落するつもりですか」 「…鋭い子だ。その通りだよ」 「…僕には止められない。  貴方がどこへ向かおうとしているのか、  痛いほどに分かるから」 「いいかい、絶対に私の行く場所だけは来るんじゃない。  君にはまだ別の道がある」 「……」 「さあ、そろそろ行きなさい。皆が戻ってくる前に」 「…お聞きしたいことが一つだけ」 「なんだい?」 「貴方の見た未来、それはいかがなものでしたか」 「…ふふ。それを、私に聞くのかな?」 「そうでしたね。  …答えて下さって、ありがとうございます、  『レイトン教授』」 「どういたしまして、『ナイト君』」 ********* 堕ちた賢者と、本性を死ぬまで隠した奇人。 お互いに常識を持ったまま病んでる二人。 最後はお互いにもう呼ばれない名前で呼び合っているので 『』付き。 No.517 - 2010/04/23(Fri) 23:37:04 *********-->