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ひーとつふたーつみーつよーっつ、と幼子みたいな高い声で 童子はひょこひょこと動いていた。 赤茶の、日本人にしては色素の薄くて長い髪が揺れ、 朱色の衣服を着た童子の傍の木には若い忍びが一人。 二人は紅葉狩りとの言葉通り、 まだ歳若い主の気紛れで近くも遠くもない神社に紅葉を取りに来たのだ。 「旦那あ、それやってて楽しい?」 「うん、楽しいぞ」 「ふーん……まいいけどさ」 嬉々満面で紅葉を掻き拾う童子に忍びはひっそりと溜め息を吐いて、 けれど目の奥では楽しそうに紅葉を眺める。 まるで蝶のようにひらりと飛び交う紅葉、遠くから聞こえる木々のさざめき、 どれも秋を思わせていた。 先程遠くで見えた小さい子供の姿、あれはどこへ行ったかと 忍びはちらほらと辺りを見張ってもいて、けれど見つからない。 「あっ」 「わ、あっ」 「あらま、派手にぶつかったねお二人さん」 何処からか走ってきた黒い髪の少年とぶつかった衝撃で、 童子はこてん、と地面に尻餅をついた。 黒い眼帯を右目につけた少年は動揺したように目を瞬いてあっと小さく叫び、 童子も同じようにぼうっとしている。 子供同士なのにね、と忍びが苦笑いを浮かべながら二人の傍にすたん、と 音もなく降り立った。 「すみません、前を見てませんでした」 「こっちもごめんねえ、ほら旦那、謝る謝る」 「あ、……すまぬ」 忍びに軽く右手を乗せられ、半強制的に謝罪させられた童子は じっと目の前の少年を見ていて、少年も彼と同様、じっと童子を見ていた。 数分が経って童子は首を傾げて少年に近寄り、にこりと微笑む。 「某、幸村と申す。お主は?」 「俺は…政宗」 *** 「政宗様!」 「…ッ!?」 怒鳴り散らす大声によって爆睡していた神経が急に現実に浮上し、 政宗は驚いて軽く数センチ飛び上がった。 どうやら日々の政務をこなしている途中、転寝をし始めてしまったらしく、 小十郎が眉間に皺を寄せて政宗を睨んでいる。 肉体的な疲労と気疲れはどんどん溜まってしまうというのは理解しているが、 こればかりはちっとも怠ける事を許さない。 「ンだよ、ちぃとばかしfall in sleepしただけだろ?」 「分かっているならばさっさと仕事をこなしてください」 「うっ……」 ぎろり、と眼光を鋭くさせた小十郎に釘を刺され、 政宗は大人しく再び政務に取り込み始めた。 (つまりは小十郎を怒らせたら怖いのだ) 見ていたあの夢の出来事は一体どの位昔だったのか、と 頭を捻って考えても思い出せない。 書面を読み進めながら、静かに政宗は溜め息を一つ、控えめに吐き出した。 ―紅と青