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「ま、政宗殿」 「Ah…どうした?」 畳の上にちょん、と大人しく座っていた幸村が堪りかねたように、 政宗に向かって静かな一言を言った。 一国の主である政宗は執務中で、 今まさに一日分が終わる所だったのを見計らったのだろう。 疲れているものの、政宗は出来るだけいつもと変わらぬ顔で筆を置き、 幸村の方向に向き直って尋ねる。 幸村は何処となく困ったような、 恥ずかしそうな、何とも言えない表情を浮かべ、やっと口を開いた。 「少し遠乗りさせて頂いても構いませぬか?」 「別に構いやしねぇけど、何でまたsudenlyにそんなことを?」 ぴしっと背筋を真っ直ぐ伸ばして座っている幸村だったが、 よく見れば両手を強く握り締めて歯を食いしばっていた。 一緒にいたのが政宗でなかったら、 その必死の形相とその状態に一瞬驚いたに違いない。 が、変な所で大人である政宗は 何故急に遠乗りをしたいと幸村が言うのかという理由の方が重要だと判断した。 「そ、その…某はじっとしているのが苦手なので…」 「まあ…アンタなら分かる気もするけどな。けどよ、軍議とかはどうすんだ?」 「真剣にしておれば別段大丈夫なのでござるが…すみませぬ」 恐らく緊張感がじっとしていることを忘れさせるのでございましょう、と 再度幸村は困ったように眉を顰めて笑った。 二人がいる部屋は丁度庭先がよく見えて、 数匹ばかりの雀がちゅんちゅんと煩く飛び立ったり着地したりしている。 その和やかな景色をちらり、と見た政宗だったが、 急に握り締められた幸村の手を取って立ち上がった。 「Ok、丁度俺も行きたかったところだ。小十郎に用意させる」 「お手数をかけまする」 思い立ったらすぐ行動する若き独眼竜の行動力に対して、 幸村はまたもや困ったような微笑を浮かべた。 ―春のある日