ぽっかりと空いた、森閑としている森の中央の大きな陽だまりで、 いつもエルディは笑ってレキウスを遊びに行こうと誘っていた。 友達だからと秘密の場所を教えてくれたり、夏には二人で海まで泳ぎに行って貝を取ったり、 秋になると紅葉を集めてお互いにかけあったり、冬には雪合戦をしたり、 小さい二人は一年中を一緒に遊んだ。 二人が一番好きだったのは、 春の日差しが暖かい日に、だだっ広い草原でのんびりと寝て過ごすことで、 いつもそこで寝そべった。 少し成長した二人は、小さかった頃と変わらず、 また同じ様に狩をしたり、魚釣りに行ったりして一緒に過ごした。 エルディの樹の民とは違うその金髪は、エルディが歳を取れば取るほど、 より薄くて綺麗な色合いへと変わっていった。 気付けば、親友であり年下でありながら彼の相談役でもあったレキウスが、 思わず見とれてしまうほど綺麗な金色になっていた。 金髪に似合う蒼い目は時折深海のあの優しさを伴った蒼に煌き、 エルディの健よかさを良く表していた。 ある日の昼下がり、 二人はいつものように草原で日向ぼっこをして、青空に浮かぶ白い雲を寝そべって見上げていた。 草原にはたくさんの野花が散らばっていたり、群生して咲いたりしていて、 春が訪れているのを教えてくれる。 頬を触り、また空中へと帰っていく風も、 今日は暖かな陽気を伴い、草の海に波を立てながら二人の間を走り抜けていった。 レキウスは青空と白い雲の流れる頭上を見上げながら、 その中でそよそよと揺れるエルディの金髪を微笑ましく思った。 自由気侭に風に吹かれ、青空の中で蒼に負けずに揺れている金髪が、 まるでエルディのようだったからだった。 「エルの髪、綺麗だよ」 「そうかな…。俺はレックみたいな緑の髪の方が良いと思うけど。 金髪だと目立つから」 つん、と自分の前髪を少し引っ張りながら、 エルディが少し不満げにレキウスの若葉に似た緑色の髪を見る。 風に吹かれて揺れていたその緑の髪を 右手でそっと梳きながら、エルディは「眠たくなったから寝るよ」、と欠伸をした。 「俺は起きてるから、日が暮れる前には起こしてあげるよ」 「うん、ありがとう、レック」 「おやすみ、エルディ」 日頃の狩で随分疲れていたのか、ふわふわとした若草に顔をくっつけると エルディはすぐに寝入ってしまった。 時期的には春先といえど、時折冷たい風が吹くことを思い出したレキウスは、 持ってきた毛布をエルディにかけてやった。 すやすやと気持ちよさそうな寝息をその唇がほっと吐く度に、 ゆっくりと日に焼けた胸が上下し、肩が僅かに揺れる。 肩が揺れて、細い肩の上にはらりと広がっている若干長めの金髪が、ふわりと草原の上を漂った。 目と鼻の先でその寝顔を見ていたレキウスは、 完全に熟睡しているエルディの髪を指でゆっくりと梳かしてやった。 (エルディの髪は、本当に綺麗な色をしている) 頭上に広がる青空をちら、と覗きながら、 自分よりも年上だというのに、自分よりも一回り小さい手を痛くないように握る。 陽の光に照らされた金髪は、絶えずその光を乱反射してきらきらと輝いていた。 普段あまり感情を激しく顔に出さないレキウスだが、 いつもいつもエルディは青い目を好奇心に輝かせながらレキウスに笑いかけた。 そうして、今笑ってただろ、と的確に自分の気持ちをぴたりと当ててしまうのだ。 常に大人しくしてなどいられずに、直ぐに自分を遊びに行こうと誘うエルディが、 レキウスはいつだって好きだった。 二人が少し成長し、互いに落ち着き始めたこの頃でも、 その気持ちは変わらずに心の奥底で眠っていた。 「ずっと俺が守ってみせるから、ずっと一緒にいよう、エルディ」 春の何処か草の匂いを含んだ風がレキウスの鼻先を掠め、 二人の間を走り抜けて若草の揺れる心地良い音を奏でていった。 レキウスは空を見上げた。 青空の随分遠くの場所に、ぽつんと白い綿雲が一つ浮かんでいる。 隣で眠りの世界へと旅立っているエルディの足元には、草原に咲き乱れる黄色の花の一つが咲いていた。 「俺が必ず守ってやるから」

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