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死後の世界なんてものが、この世界の何処か、
辺鄙な所でも人々にとって有名な所でも良い、
ともかく何処かにあれば良いのに。
とんでもないことを思ったことは一度じゃなかった。
もし彼女に逢えたら、たとえ逢えなくても声さえ聞こえれば、俺はどれだけ救われるだろう。
そう思ったことは数多とあった。
強い願望が何時しか遠い望郷の思いにすり替わる頃には、俺は一人、のうのうと生きて、世界中を放浪していた。
いや、放浪とは違うかもしれなかった。
一箇所に留まれば愛着が生まれ、愛着が生まれると再度、昔のことを思い出し、また願ってしまう。
だから仕方なく、一箇所に三ヶ月、それ以上は滞在せずに縷々と旅を続けた。
きっかけは覚えていないが、ある日、長くとりとめのない旅を終え、暫く一箇所に長く滞在した。
気侭に自給自足の生活を営み、ふと気づけば、あの時から既に十年が経ち、災厄の後はなくなり、世界はとても潤い、豊かに栄えていた。
――全てに一段落をつけて暫く後、傍から見れば自殺未遂とも言える行為をして、
俺は「彼女」に助けられ、けれどその前、「彼」と対面した。
別世界の中でじゃなく、何処ともいえぬ場所で、
揺らめく視界もさんざめく音も、全て夢だと気づいてしまった時だった。
このまま目覚めず、意識という暗くて揺らめく棺の中で、ただ、死を待っていようか。
その方が(幾分か長引くにしても)楽だし、生きる事に疲れた俺にとっては助かる。
それを決意しようとした俺の前に、いた。
強い日差しがあって、その顔は見えない。
長い絹みたいな髪が風に揺れていて、俺の知らない、着易い服を着ていた。
そうして立っている彼は、俺の兄だった面影を色濃く残していて、俺ははっとした。
「俺が憎いか」
「…今はまだ、憎んでる」
「死ぬつもりか」
「そのつもりだ。もう如何でも良くなってしまった」
だから、死のうとした。
でも、それは正当な理由だろうか。
心の奥底の端っこに小さな疑問の芽が芽吹く。
生命が誕生すること死亡することに理由なんてない。
ある日突然死んだり生まれたりして、思い思いの人生を歩み、時折挫折して道を踏み外そうとすることもある。
俺は、どうして死にたがったんだろう。
「お前が死にたいなら止めはしない」
どうして、死のうとしたんだろう。
ぐわりと視界が歪み、目尻が熱くなった。
遠くに聞こえた遠雷と風の音が途絶えて、今度はどくどく言う自分の心臓の音がする。
「…本心ではないはずだ、エルディ。生きたいと願う心があるからこそ、最後の瞬間、お前は、」
あの時、水面に身体が叩き付けられた摩擦の痛みがして、海面を仰ぎ見れば呼吸が途絶えてぼんやりとした。
途切れがちな意識の中で俺は必死に、けれど無意識に誰かを視界の隅々まで見渡して捜していた。
そうだ、あの時、俺は、
「『死ぬのが怖いと思った』」
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―初めましての温かさ
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