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柔らかい午後の日差しが差し込む、暖かい陽だまりの床に寝そべりながら、 ぼんやりとエルディは天井を見ていた。 元々一人で暮らしてきた家だったこの場所は、 外で風に揺られてざわめく葉ずれの音がよく聞こえる。 とくり、とゆっくり脈拍を生み出す心臓までも温かくなるような感覚に、 そっと目を閉じ、昔の草原を思い浮かべてみた。 移住空間全てに差し込む木漏れ日は、葉ずれの音なき音がする度に 目蓋の裏をきらきらと眩しく射抜いてくる。 クッションを少し右にずらそうと手を枕元にやったところで、 ようやく先ほどから気づいていた違和感の原因が分かった。 「……?」 いつもならこうしている内に、 分厚い本のページを丁寧に捲っていく音がする筈なのに、それがしないのだ。 不思議に思って上半身を床からあげると、 やはり、予想通り、ストラウドはぐっすりと気持ち良さそうに寝ている。 隣に自分と同じように寝そべっている男が見せる冷たい青色の目は、 今はゆらりと閉じられ、胸は上下している。 普段あまり感情表現はおろか、文句や苦情も必要以上に言ったりしない彼だけに、 寝顔と横顔は新鮮だった。 (そういえば、この人は愛されるということを知ってるんだろうか) ぱたぱたと目を瞬きながら流れる様に梳かされた長髪がかかる、 鋭い目元から竜形の痣までをちらりと流し見る。 思えば、今こうして共にいる腹違いの兄とは、 何かと奇妙な巡り合わせだと言えなくも無い。 時折美しく、時折残酷に人を巻き込む運命に翻弄され、 全てを失う共通の痛みをお互いによく知っていた。 狂気とも言えるほど世界を渇望したこの男と自分とは、 身体を流れる血の何処か深くに、同じ慟哭が潜んでいるのかもしれない。 だから何時か、こうして分かり合える日がくるんじゃないか、と 十年前は思ったことが一度だけあった。 幸か不幸かその予想は当たってしまったし、 長年独りだった自分は三年ぶりに隣人のいることの有り難さを知れた。 「大丈夫」 晩年仏頂面の男が起きないよう出来るだけ注意深く、 小声で同じ血の流れる存在と自分自身へと語りかける。 なにが大丈夫なのかは少しも分かる素振りはなかったが、 今のところお互いに言えるのはそれだけしかなかった。 自然と花の香りが広がるようにそっと口元に浮かんだ笑みを消さないまま、 もう一度、ゆっくりと唇を動かしていく。 「俺だけは、最後まで信じてあげるよ」 独りよがり