今俺の目の前で、 バルフレアがスパゲッティを食べている。
綺麗な手が自然と優雅な仕草を醸し出していて、 大人っぽくてかっこいいなぁと思ってしまった。

人間の姿をしているバルフレアは、 低い声にしっくりくるような、端正な顔つきだ。
着ている灰色の絹のシャツとジーンズから、 腕と耳の装飾品まで全て彼に合っている。

とてもあのぬいぐるみだとは信じられなかった。

「何だ人の顔じろじろ見やがって」
「別に・・・なにも」
「あんまり格好いいから惚れ直したか?」
「ばっ馬鹿だろ!誰がお前みたいな奴を・・・」

つい視線が泳いでしまい、語尾が小さくなった。
普通の高校生はこんな美男を見た事がない。
この男の毒気にやられた、なんて気色悪いし、 それはそれで認めたくなかった。

成長期真っ盛りな俺がフォークを手に取る。
今日は災難ばかりだ、もう嫌になってくる。
心なしかスパゲッティも涙の味…

「あ、美味しい…」
「たりめーだ。不味い飯は食いたくねぇだろ」

ではなく、料理店で口にするそれだった。
普通に美味しいし、オリーブオイルが丁度良い。
もしかしたらコイツは中々便利かも。
二人以上で食事すれば美味しさも格段で。

…例え相手が超美形でニヒリストな男でも、 真正面に人がいる安心を与えてくれた。

夕食を俺がもごもごと食べ終わると、 バルフレアが足を組み替えた。
女の子はこういう大人の男に弱いのかな・・・。
いけないいけない。そういう考えは止そう。
自己嫌悪に陥っちゃうし。

「・・・ごちそうさま」
「おい、」

席を立とうとして腕を掴まれる。

何をされるかぼんやり見ていたら、 バルフレアの手が顎にかかり正面を向かされた。

って顔近いよ!

心の叫びとは裏腹に、体は動かない。
そう思っている間に唇に長い指が触れた。
内心を裏切るようにされるがままにされる。
キスされるのかな、このまま。
吐息が頬に触れるほどあの男の顔が近い。

「口の周りにミートソースついてっぞ」
「!!」

皮肉った笑みを浮かべた口がそう言った。
ボンって顔が音が出るくらい急に真っ赤になる。
今俺は何をしてたんだろうか、 考えるだけでも羞恥心で一杯になった。

こ、この変態親父!!

「お前の方がいやらし・・・ブハッ」
「馬鹿だろアンタっ!」

憎たらしい横っ面を思いっきり引っ叩いてやった。
途端に乾いた音がしたような気もしない。
わざと受けたみたいだから加減しなかったけど。

だってあともう少しでファーストキスが奪われる…
絶体絶命の危機にされたのだし。


***


「・・・でさ、結局どっちの姿な訳?」
「俺の気分と魔力で変わる」
「・・・・・・」

結局翌日には、 元通りのぬいぐるみの姿になったバルフレア。
声はそのまんまだから気味が悪い。

ちなみに台詞の前半部分は聞かなかった事にした。

「そもそも俺が来たのは人探しだしな、長時間お前の家にいる訳じゃねぇよ」
「人探し?誰を」
「盗人さ」

その可愛らしい目元を細めて遠くを見つめる。
在りし日々(自分で言っといて何だけど、寒いなこれ) を思い出してるんだろうか。

盗人、と言ったけれど、一体何が?もしくは誰が?

「そもそも、なんでアンタみたいな奴が式神に?
極悪人だった訳?それとも元々?」
「どちらかと言えば…元々、だな。
式神がこの世に存在するのは転生か物質に強い念が宿って誕生するはずだろ」

一息吐くとバルフレアはやれやれと首を振った。
物質に強い念が宿って…って言われてもピンとこない。
そもそも転生って何だろう状態なのに。
読心術で俺の内心を読み取ったのか、ぬいぐるみが 皮肉った笑みを浮かべて回答した。

(な、なんか凄くムカツクー!)

「俺はとある蒼薔薇(ブルー・ローズ)という宝石の生まれだ。
ソイツっていうのはだな、俺の生まれた宝石を盗んじまった」
「え?ブルー・ローズ…青き薔薇のこと…!?」

驚愕のあまり思わず叫んでしまった。
俺同様ではないけれどバルフレアも少し驚いている。
だってそれは、俺の。母さんが。
そんな筈はない。だってあれはもうここにない。

十年前忽然とあの宝石は消えてしまったのだから。

「それ、もしかしたら…もしかしたら俺の母さんのだ。
十年前行方不明になって、そのままの」
「何だって!?」

目の前が真っ暗になる。
もしあの宝石がそうなら、 バルフレアが探してた盗人ってのは、 俺の母さんだったのかもしれないのだから。


CRAZYman,you are! 後編

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