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俺は今日もまた通っている高校に普通に行って、
無事帰ってきたはずだったんだ。
視線をちら、と新しい同居人に移す。
「おいヴァン、宿題はやったのか?」
鷲をデフォルトにしたようなソイツが言った。
可愛らしい姿とは裏腹の低いアルトで。
―つまり目の前にいる奴がいるというのは
ため息が出るほど悲しい事実なのだ。
何で俺が、こんな未確認物体と・・・・・。
というと、数刻前に遡る。
***
「じゃあなーヴァン」
「おう、また来週な!」
談笑しながらクラスメートは帰っていった。
俺はたった今部活を終え、帰り道を急いでいる。
一人暮らしだからどうもしないけど、
我が家に帰りたいと思うのは人の情だ。
いつものように角を曲がる。
数メートル先に家が見えて安堵した。
鞄を肩に掛けなおし、家に向かって歩いた。
…はずだった。
「おいボウズ!」
「誰がッ・・・ってあ、れ?」
ボウズ、と呼ばれたことに反応して声を上げたものの、
人影らしきものはまったく見当たらない。
奇妙なこともあるもんだなー・・・と首を傾げた。ら。
「ここだここ。お前には俺が見えんだろ?」
「ぬ、ぬいぐるみが喋って・・・!」
可愛らしい鷲のぬいぐるみが俺に語りかけた。
低い声は男の俺でも憧れる・・・じゃなくて、
遂に俺の頭も狂ってしまったか、と頭痛を覚えた。
きりきりとこめかみ辺りが痛い。
「誰がぬいぐるみだ。俺は歴とした式神、バルフレアだ」
「式神?お前が?」
ぬいぐるみ・・・バルフレアがふん、と鼻を鳴らした。
気に食わない奴だなぁ。ってか何で俺。何故に。
何が何だか混乱する俺にバルフレアは話を続ける。
「とりあえずボウズ、お前の家に泊めさせてくれ」
「だからッ!誰がボウズだーッ!」
激怒する俺をシカトしてバルフレアはパタパタと飛んで、
家の玄関前にぴたりと止まった。
嗚呼悲しいかな、お人好しだから非情になれなくて。
こうして、俺とバルフレアの生活が始まってしまった。
「うぅうっ・・・なんで俺がこんなぬいぐるみの世話をっ」
「・・・ぬいぐるみじゃねぇって言ってんだろが」
「おまけに見た目と違って超美声だし、もう嫌・・・」
「・・・・・・」
心底呆れた目でバルフレアが俺を見つめる。
右翼でカップラーメンの麺がある箸を持ち、
どうやってか嘴でそれを食べていく。 おまけに旨そうに。
畜生!
いいじゃんか俺だって小言くらい言いたくなるって!
っつーかお前の所為なんだよ!!
しかも遠慮なしにカップラーメン食うなッ
「愚痴を言う暇があるなら宿題しろ宿題」
「・・・じゃ、二階で宿題してるからな」
「おう」
現実逃避を宿題ですることにした。
このままだと頭がこんがらがって狂ってしまう。
鞄を手に、狭い階段を足早に上がりきる。
自室に入って一息つくと、
俺は転がり込むように机に突っ伏した。
「とりあえず宿題しようかな、うん」
本当は勉強は大嫌いなんだけど、
今日ばかりは妙に好きになれる気がした。
***
「宿題終わったーっ!」
開放感を味わいながら俺は腕を伸ばす。
しかし、ひたひたと幸福感に浸っている状態を
見事にぶち壊す元凶があった。
「飯適当に作っといたぞ」
「・・・っ」
ごん。思いっ切り頭と机がコンニチワ。
我ながら素晴らしい表現力だ、ブラボー。
…段々キャラが壊れてきた気がする。確実。
ぶつけて痛む額を摩りながら俺は振り向いた。
「ディナーでも食べようぜ、お嬢さん?」
「えっ、え、ええええ!?」
予想外な事に俺の目の前に立っていたのは、
鷲ではなく片目を瞑ってエスコートする男だった。
驚いて瞬きも出来ない俺は間抜けな声を出した。
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CRAZYman,you are! 前編
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