夜明け前の黒染めの空が端の方からじわりと、 鮮やかな色彩で彩られていく。 あまりの美しさにもっと近くで見たくなり、 飛空挺の操縦を自動運転に切り替えた。 シュトラールのデッキは、そう広くも狭くない。 適度な広さで、適度な場所に配置されている。 俺は眼福代わりに鮮やかな朝焼けを見つめた。 …明日は雨が降るかもしれないな。 「おはよ、バルフレア」 「ああ、おはよう、ヴァン。腰は大丈夫か?」 「大丈夫」 ヴァンは普段の薄着ではなく、 俺が買ってやった服をすんなりと着こなした。 元々体つきが華奢なのに、より細く見える。 つかつかとデッキに靴音を鳴らしながら、 すぐ隣の、つかず離れずの位置に立った。 「朝焼けがすっごい綺麗じゃん」 「ああ、明日雨天になるがな」 「嫌な事言うなって」 昨晩押し倒して貪ったその体が伸びをする。 肺で息を吸えば、ぱきりと骨が鳴った。 やはり昨日の疲れは完全に取れていない。 ヤクトを突き進むシュトラールの周りには、 広大な雲海の切れ端が浮かんでいる。 「バルフレア」 「何だ?」 「…ここに生きてるんだっていう確認だよ」 大人ぶった顔が俺に向かう。 その不安を取り除いてやりたくて、 ヴァンの左手と、自分の右手を合わせた。 古典的な方法だな、と自分に苦笑いする。 「愛してる」 「安心しろ、俺も愛してる」 きゅ、と握っているその左手が握り返した。 目的地につくまでの数十分間、 ずっと俺は眼前に広がる景色を見ていた。 いつかはこの手を離さなければならない時がくる。 それまで俺はヴァンを愛していきたいと思う。 別れを告げるときにはこれ以上ないキスを送ろうと。 永遠なんてものが存在しないとは分かっている。 けれど情けない俺は、 できればその時が死ぬ瞬間であるように、願った。 I GAVE YOU LOVE, AND GAVE MYSELF PEACE 貴方を愛せば、私は平和になれるのだ ブラウザバックでお戻りください。