月明かりに照らされて幻想的に輝く光の翼に、 そっと一人グラスを傾ける。 中の琥珀色が揺れて薬指の指輪に反射した。 ビュエルバにとったホテルは景観が良く、 月見酒と洒落込むにはもってこいだった。 「心底嫌い、か・・・」 昼間出会ったヴァンはそう言っていた。 彼も何もかも変わっているのに、縋りつく自分に ウィスキーを飲みながら嘲笑を浮かべる。 なるほど、切羽詰っているのは俺か。 左手の薬指に輝く婚約指輪を睨んだ。 まだ、アーシェとの結婚式は挙げていない。 ・・・三年は短い。 まだ三年しかヴァンと自分の時間は止まっていない。 そう思ってやり直すならば今かと考えているのだから、 諦めが悪いものだ。 『さよなら、ファムラン』 別れる直前にヴァンは幸福を祝う微笑を浮かべ、 王都ラバナスタの城門から去って行った。 けれど今思えば、その目元は酷く赤く腫れていた。 一晩中泣いてやっと衝動を抑え、 ヴァンは自分と別れる事を覚悟していたのだろう。 『さよなら、幸せに』 内心泣き続けてそれでも笑顔でいたのだろう。 あれほど愛していたのに、戻れないと知って。 ぶわ、とカーテンを突然押しやり、 夜風が部屋に入り込む。 やり切れなさを紛れさせる為にぐい、と もう一口きついウィスキーを飲んだ。 「三年前は、繋がっていたのにな」 今はもう、交わる事はない。 そう言いたいんだろ、ヴァン。 泥のような眠りにつく為の自棄酒を喉に流し込めば、 昔愛していたヴァンが目蓋の裏で笑っていた。 テーブルの上に置かれたボトルの中で月が回る。 いつかはヴァンとの日々も、この夜も、 思い出として片付けられる時がくる筈だ。 深く肺の奥まで空気を入れるように深呼吸して、 暗闇に目を閉じながら椅子に寄りかかる。 「俺もお前も、 結局最初から素直になれなかったな」 時が流れて結局こうなったと片付けるなら、 朧月夜の如く曖昧な記憶におさらばしよう。 「『さよなら、』」 柄にも無く泣きそうになっていた。 本当は、 俺のほうがお前に素直じゃなかったのかもしれない。 ブラウザバックでお戻りください。