やっと無事に到着したというのに、 何故だかデュランとパンネロが慌てていた。 飛空挺に何かあったわけではないようだ。 そして直ぐにその原因が分かった。 「どうも・・・バルフレアが来ているみたいなんす」 「バルが?」 「さっきノノに会ったの。きっと来てるはずだと思うよ」 バルフレアが、ここに来ていることは予想外だった。 じんと会いたい気持ちが染み出そうで、 思わず目を伏せた。 二人が不安そうな表情で俺を同時にちらと見る。 安心させるために笑みを浮かべて俺は言った。 「なるべく会わないようにすればいいって」 *** 「ワイは留守番しとるから、早う帰ってきてぇな!」 とコッカは俺の飛空挺「スカイブルー」に留まった。 俺はというと、残った二人とも別れて裏道を歩いていた。 真夏の日差しが容赦なく照らし出す歩道は、 歩いていてもじんわりと汗が滲み出す。 どこか日陰はないかと視線を彷徨わせて一点に目が留まる。 茶色の髪に翡翠の目をした男が一人。 「っ!?」 俺の知っている姿とは少し違っていたけど、 バルフレアが隣の店から出てきた。 ・・・・・・やっぱり、会いたくなくなった。 慌てて路地裏の奥に身を隠して見つかるまいと息を潜める。 たったそれだけのことで心臓の鼓動が早くなった。 こちらに向かってくる足音に怯えて、 顔を隠したほうがいいのか考えていた。 でもどうやっても金髪は目立つと気づいて目を瞑る。しまった。 「ヴァン、か?」 「・・・・・・」 結局見つかった。路地裏の入り口に人影が立っている。 この場をやり過ごそうとバルフレアの横を走った。 会いたいと思っていたのは事実だけれど、 ビュエルバの路地裏で、こんな顔で、こうして会いたくなかった。 「つれないな」 「・・・っ離せよッ!」 「それは無理な相談だ」 瞬く間に手を引かれてバルフレアと向き合わされる。 三年もあったからか少しだけ背が高くなっていた。 捕まれた手首を離させようとしても バルフレアとの力の差は歴然としていて歯が立たない。 「会いたかったんだ、お前に」 「俺は、会いたくなかった」 きっと翠の瞳を睨みつける。 昔の俺なら逆らえなかった視線を、睨んだ。 「自分から別れたくせに、 会いたいだなんて言うなよ」 「・・・・・・・・・」 「俺はあんたが心底嫌いだ」 バルフレアの鋭い目に俺の睨んでいる姿が映る。 一瞬、掴んでいる手の力が緩んだ。 その隙を突いて全速力で走り出した。 路地裏から大分離れても俺は走り続けた。 息をする度に大気がちくちく肺を刺して痛い。 いつのまにか、青天が焦がしているターミナル裏の 誰もいない、途方も無いほど広い空き地に着いた。 日陰になっている壁際に座り込む。 走り続けたのと、泣きそうなのとで顔が熱い。 腕をまだ掴まれている感覚がしてそっと摩る。 バルフレアを嫌いになろうと今まで耐えていたのに。 けれど、全身がバルフレアを欲しがっていて、 三年間耐えていた物がどっと溢れ出た。 「・・・なんで、今頃・・・ッ! 自分で捨てたくせ、に、何で、何、で・・・」 嗚咽が零れ始めると苦しくなった。 止め処なく流れ出る涙が空を滲ませて、 スケッチした水彩のようにぐらぐらと視界で揺れている。 夕暮れ時まで俺は泣いていた。 ただ、何かとてつもなく大きな感情で動かされていた。 座り込んだまま立ち去れずに泣き続けた。 ・・・泣く事しか、できなかった。 ブラウザバックでお戻りください。