「あれ、今日はやけに早いじゃない」
「たまには俺も早く起きるんだよ」
「朝ごはんは食堂にあるからね!」


自分の部屋から寝癖で出てきた俺にパンネロが声をかける。

やっと手に入れた飛空挺は値段に見合わず、便利だ。

それでも多少の傷はつくのでメンテナンスをパンネロに任せている。


***


食堂の一歩手前にある洗面所で顔を洗う。

壁にかかっていた清潔なタオルで顔を拭きつつ、髪を整えた。

こういう余裕が出来る度に自動運転にしてよかったと思う。

僅かに生えていた髭をそり、食堂に向かった。


「お早うございまっす、ヴァンさん」
「おはようデュラル。朝飯、どこ?」
「そこに出しときましたよ。
 あぁ、あと、ダルマスカ女王からお手紙っす」
「ありがとさん」


2年前に出会い、仲間になってくれたデュラルは笑った。

確か当時はまだ俺もパンネロも駆け出し空賊で、
デュラルと出会ったのはアルケイディスだったか。

機工士である彼は料理や選択も上手で助かる。



朝食は依然立ち寄った村で貰ったパンと卵焼き、
それから適度な甘さのスターフルーツのサラダに牛乳。

ちゃんと俺の好きな食べ物を入れてくれている。


「次は何処にいくんすか?」
「そうだな・・・お前なら何処に行きたいか?」
「うーん、ビュエルバっすかねぇ。
 機工士としてあそこの技術は面白そうっす」


若干18歳の機工士はそう言って船長室へと出て行った。

彼が出て行った後にすぐ入ってきたのはコッカ。

ペットとして俺が飼っているコカトリスだ。

愛の羽根というアイテムのお陰で、
俺はコカトリス語を解し、話すことが可能になった。

ので、コッカとは大の仲良しになり、ギーザの人々に譲ってもらって今に至る。


「船長はん、お仕事お疲れ様やー」
「お前もなコッカ。狭いだろ、部屋」
「そないな事ない、わてには十分や!
 ・・・それよりも船長はん、もう三年経つんや。
 ちびっとはあいつのことが気にならへんのか?」
「全然」


牛乳でパンを喉に流し、俺はきっぱりと言った。

デザートのスターフルーツに手を伸ばす。

コッカは「そうやろか・・・」と眉を(?)顰めた。

慰めの代わりにポンポン、と頭を撫でる。


「バルフレアはさ、ああいう奴だよ。
 違う道を選んだんだからしょうがないって」
「でも、ちびーっとは悲しいやろ?
 別にわては船長はんとあいつのことはつべこべ言いまへんけど、
 人肌が恋しくはならへんのか?」


スターフルーツを食べる手を止め、じっと考え込む。


・・・本当はバルフレアが恋しい。別れたくなんてなかった。

でも今更後悔して何が変わるだろう?

一度過ぎてしまった過去、一度言った言葉は取り消せやしない。

熱くなった目頭が冷めると俺は口を開いた。


「たまには。でもそれだけだってば」
「あのな、船長はん。
 わて、前の村であいつに似た奴を見かけたんや」
「・・・そう」


なるべく動揺した事を悟られないように、
目をそらしてスターフルーツを食べ終わる。

朝食を洗い場に置いてエンジンルームへと向かった。

後ろからコッカが俺に続いた。


***


思えばパンネロとコッカはいつも俺を励ましてくれてた。

その励ましにどれほど助けられたかは計り知れない。

だからきっと俺を励まそうと言ってくれたのだろう。


「ありがとな、コッカ。
 コッカや皆がいるから俺は寂しくないよ」
「そうならえんやけど」
「心配してくれるだけありがたいんだよ、俺には」
「あのな、船長はんに落ち込んだ顔は似合いまへん。
 でも船長はんの笑顔は皆大好きや。
 そこんとこ忘れんといてや」


あっけらかんとコッカを見ていた俺に、コッカは笑った。

その笑みにつられて俺は久しぶりに心から笑う。

今日は青空がやけに目に焼きつく日。

郷愁なんて俺らしくもないけど、少しだけ感じてた。


***


そういえば、飛空挺のエンジンって魔石の力を変換するものらしい。

未だに飛空挺のしくみがよく分からないものだ。

機工士程ではない俺にだって知識は少しある。

メンテナンスを丁重にこなし、額の汗を拭う。


「ヴァン、いる?」
「あ、何かあったのか?」
「もうそろそろビュエルバに着くって。
 ・・・随分と丁寧だね、飛空挺には」


メンテナンス、とパンネロは顎で俺の手元を示した。

普段はあまり自分の部屋も掃除しない俺だから、
機械に対しても同じだと思われがちだ。

でも実際はすごく丁寧にやっているのだが。

はめていた手袋を外し、タオルで顔全体を拭いた。


「じゃあ俺着替えてくる」
「うん。多分そのころには飛空挺着いてるよ」
「代金とは任せちゃうけど、ごめんな」
「いいの!ほらさっさと着替えなさい」


もうすっかりお母さんなパンネロに背を押される。

汗がじっとりと染み込んだ服は不快感極まりないのだし、
お言葉に甘えて自分の部屋へと向かった。


***


「ん?何だ、ってこれ・・・あの時の!」


何か着るものはないかと箪笥を開けて第一声。

赤い腹巻と黒のズボン、銀のとめ具・・・

そう、昔冒険の時に来ていた夏服だった。

なんだか懐かしいなと思って来てみる。


「うわ・・・やたらとスースーする。よくこんなの着てたよな・・・」


胸の装着具を留めても胸元は涼しい。

ビュエルバは時期的に夏だし、いいか。

だが用心に越したことはないとも言う。

一応、装着具の裏に短剣を忍ばせた。


「ヴァンさーん、そろそろっすよー」
「分かった!今行く!」


いつものように指輪を身につける。

最後にバルフレアがくれたものだった。
さあ、今日も頑張らないと。
















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