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いつもいつもそうだ。
気づけば俺は独りで立っている。
まっしろな世界で、ただ独り、ぽつりと何もない道に立っている。
人一人としていない、虚無の彼方の道は怖いはずだった。
けれど人としての感情が欠落した俺は少しも怖くない。
何度もその手に刃を握り、刑務を執行してきた。
断末魔がつんざけるように叫ばれたその様も見てきた。
その度に異常なほど冷静な自分が嫌になる。
ああ、死んだ。また、俺が殺した。
ファムラン
また誰かが俺を呼ぶ、その忌々しい声で呼ぶ。
喉を切り裂きたくなる醜いしわがれた声だ。
かつて俺のことを育て、俺に色々なことを教えてくれた、
あの優しい父はいないと気づかされた声だ。
ファムラン
やめろ俺はそうじゃない、お前の手駒じゃない!
毎回のことで、耳を両手で塞いで俺は走り出す。
俺自身の過去から足を遠ざけて、今に逃げていく。
いつかの庭で一緒に本を読んでくれた。
いつかの家で母と父が笑いながら手を引いてくれた。
……あんな日々はもう帰ってこないだろう。
バルフレア、
次に俺を呼んだのは若草のように凛、とした声音。
はっとした。足を止めてその声を聞き入った。
あのしわがれた声はどこにいったんだ、親父は、一体どこに。
バルフレア、
懐かしい碧眼がこちらに振り向き、もう一声が響く。
親父は、もういないのか。あの声は二度と聞けないのか。
頭では様々な考えが巡っているのに、身体が動かない。
そうか、なんだ、これは、ただの、夢じゃないか。
もう捕らわれないんじゃなかった?
にっこり笑うな、頼むから、ああ、今度は蒼に捕らわれちまうじゃねぇか。
夢見が悪い目覚めの視界に広がる金色と蒼に苦笑した。
目を覆って二人してくすくすと笑う。
ああ、ウルトラブルーに捕らわれていく、深海に飲み込まれちまう!
それでもいいさ。俺にはもう空も地も過去も関係なくなるのだから。
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ウルトラブルーに捕らわれる
お前を愛してると、心底そう思っちまったんだから
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