■ ■
夜陰に眩しいくらいの光を投げだす月に、
紫煙をたゆたわせる。
ああ、やる気が出ない。何が、とかではなく。
それはアイツとて同じ事だろうし、
久しぶりに寝台の上でシーツの海を泳ごうか。
するりと肌触りのいい背中を見せるソイツ。
何を考えたかこっちを振り返って睨みつけてきた。
あからさまに単調な声でおもむろに言われた。
「そんなに俺、色っぽい?」
返答する代わりに肩をすくめればまた脱ぎ始める。
長椅子の上に掛けられた寝間着も、
この部屋に差し込んでいる月光で青く光っていた。
煙臭くなるのはソイツが嫌うので窓を開けた。
たゆたう煙が白く濁って絹のようだ。
着替え終わった細い体躯が歩み寄ってくるのを
見つめる。
それが男だとは分かっていながらも抱いてしまうのは、
どうしようもなく手放せないからだ。
不可思議なほどすんなりと俺に合うその体。
褐色の肌が触り心地が良いことを、俺は知っている。
「先寝てるからな」
ふっと吐き出した煙に視線を向ける。
嗚呼、いつからこうまで依存してるんだ俺は。
浮かぶ嘲笑で頬の筋肉が緩んだ。
憂鬱気味な夜に少しだけ謝礼でもしてやろう。
「おいヴァン、ちょっと待て」
聊か乱暴に煙草を灰皿に押し付けた。
不機嫌そうな声にソイツが俺を振り返る。
あんまりにも驚いたようだったので、
その細腰に腕を回して口付けてやった。
どうせ依存するなら、
奈落の果てまでやってやろうじゃねぇか。
■
プロレタリアートに
成りすます ブルジョアジー
|