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「バルフレアッ・・・!」
乾いた風にのって何処からともなく声が聞こえた気がした。
普段よりも高かったが、それは間違いなくヴァンのもの。
「面倒ごとに巻き込まれたくない」
というのが切なる願いだったが、やはり彼には無理だったか。
男は小さく舌打ちしていた。
戦うための武器も防具もないが、その位で囚人に負ける訳にはいかない。
昔少しだけやった体術が役に立つかもしれないな。
それに、あの少年を殺させはしない。
あれは俺の獲物だ。
焦る気持ちを抑え、
辺りを見渡せば目に留まるのは誰かが開けた砂まみれの扉。
好奇心旺盛なヴァンが入るのは、中途半端に開けられた扉くらいだろう。
「ったく世話のかかる小僧だぜ」
そう愚痴るや否やバルフレアは開かれた扉に飛び込む。
見れば、囚人達がある一点をみて哀れみの表情をそれぞれ浮かべていた。
目を向ければ、
銀髪に真紅を滲ませた少年が囚人に引きずられていく様子が視界に入る。
ヴァン、と口から音のない言葉が零れ、
ぞくりと彼を失う恐怖が胸をよぎった。
面倒な事は嫌いな男にしては珍しく、自ら囚人の目の前に飛び降りる。
「バル」
驚いた顔をした少年はすぐに敵意を目の前の囚人に向けた。
バルと言ったのはきっと男を呼びかけてよしたからだろう。
それとも勝手に呼称を決めたのか、どちらか。
男はその口元ににんまりと笑みを浮かべた。
さて、この戦いが終わったらニックネームでも決めてもらおうか。
そんな下らない事を考えている自分がいつもの自分らしくなく、
男は密かに苦笑う。
恋焦がれると人は変わる、とはこの事だったな。
お楽しみは砂が下に混じるような牢獄よりも、青空を下にした王都で。
空賊がコキコキと拳をならすと同時に戦いは幕を開ける。
ヴァンが静かに息を呑んだ。
お前の目に俺はどんな風に映る?
牢獄を仕切っていたであろうシーク族を地面に伏させ、息をつく。
肩で息をしていたヴァンがバルフレアに消えるような声で囁いた。
「あ、あのさ・・・助けてくれてありがとう・・・バルフレア」
「気にすんな。男ならああするべきだからな」
?と首をかしげて意味が分からないというヴァンに苦笑う。
本当に鈍い奴だ。
くいくい、と指で傍によるように示し、
傍によってきたヴァンの耳元に低めの声で囁いた。
「俺はお前を守りたいだけだからさ」
「っ!!」
ヴァンは華奢な肩を恥ずかしさで震わせ、
耳元まで真っ赤に染めた顔を隠すようにそっぽを向く。
フランが檻の傍まで来たのはその直後だった。
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パブロフの如く
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