■ ■
はぁ、とため息をつきながらバルフレアは気絶している青年を見やる。
頭を殴られていたが、そこまで酷くないだろう。
天井からは時折光を受けて黄金色に輝きながら砂が零れ落ちていた。
「ヴァン・・・」
少年の名を呼ぶ。しかし彼はぴくりとも動かない。
・・・気絶しているだけだというのに、
胸をざわざわと嫌なもやが覆う。
一体俺はこんな小僧にいつから惹かれていた?
また一つため息をつくとバルフレアはヴァンの唇に触れた。
吐き出された息で指がほんの少し熱を持った。
それは熱く、
そして誘っているかのように緩く開けられている。
いけないな、男に欲情するなんて、俺は変人か。
牢屋に入れられた空賊はそっと褐色の肌に口付け、
傍にあった箱に腰掛けた。
金に近い銀髪が日に透けて光り輝く様子をじっと見つめる。
つ、と額をつたう汗に不快感を感じ、手で汗をぬぐった。
「にぃ・・・さ・・・」
意識はまだ夢の中にいるのだろう。
ヴァンが呟いたかすれたような息が砂を少しだけ動かした。
乾きそうになる唇をかるく湿らせ、
個室ともいえない狭い部屋を見わたす。
ふと死体が青年の傍にあることを知った。
それは二人の行く末を暗示させる物になるかもしれない。
嫌な考えが思い浮かぶ。
「・・・そんなの、冗談じゃないな。」
バルフレアはゆるゆると頭を左右にふった。
ここで野垂れ死ぬなんてまっぴらだ。
どうせ死ぬのなら、自由な空で死にたいものだから。
それに今ちょうど頼れる相棒が出口を探しにいってくれている。
逃げ出せずに一生をここで過ごすことは絶対にない。
だが彼ならばどうなるだろう。
・・・ヴァンが死んでしまったら俺は何を思うのだろう。
悲しむか、過去を断ち切ってしまうか、
それとも望まれずとも自ら命を絶つか。
なだらかな砂の山に視線を追いやる。
今日は何故だかいやにネガティブ思考になっている気がした。
そうさせるのはきっとこのガキが、
「俺には眩しいな・・・ヴァン」
灼熱の太陽よりも俺を焼き殺すほど眩しいんだろう。
宝石で着飾っても、化粧をつけても、ましてや女でもないのに。
お前は俺の奥深いところを簡単に曝け出させる。
■
Let Me Say GOODBYE
|