「なあ、ヴィルア、この戦いが終わったらどうするんだ?」

不思議な地形の元に建っている「塔」を見て、カイトはふとそんな事を俺に訊ねた。
気持ちに余裕などお互い無かった筈で、今もこれからの戦いに備えて休息を取っていた。

そして―― 
突拍子に問いかけられて、 初めて俺は、その時一体何を思うのだろう、とふと気づいた。

今まではというと、「生き残る」という一つの目的の為だけに必死に戦ってきた。
後先など考えず、ただ、いつか訪れる平和を信じ、現れる「王」を信じて戦い抜いた。

けれど、俺自身のことは、これといって…。

「…何も。戦うのに、必死だったさ」
「だろうな。ヴィルアはいつも、必死だったろ?」

灰色の空から差し込む、セピア色の閃光に思わず目を瞑り、 カイトはにや、といつもの笑みを浮かべた。
(最近になってどうやら生来の頭に加えてもっと磨きをかけて悪賢くなったようで。)

その笑顔を見た気分はこれといって悪くなく、 むしろ、世界の終焉を司る場所で呑気に笑っているカイトが頼もしく思える。

ああ、やっぱりこいつも「王」だな、と俺は内心呆れた様な、感心した様な声を出した。

最後の最後まで決して諦めない、最後の最後まで可能性を信じ続ける王…。
俺はそんな「王」が、自然体でいられるような人間が相棒でよかった。

本当に、お前が「王」でよかった。

「なあ、ヴィルア。これが終わったら…」



***



竜巻雲が晴れた後の空には、やけに爽やかな風が流れていた。
全て終わって、全部何もかも片付いて、 その後に残る虚しさとは裏腹に、とても気持ちの良い風だった。

「ねえヴァン、これからどうするの?」

パンネロが唐突に俺に尋ねた時にも、一際強い風がデッキに吹き荒んで、 二人して思わずわっと声を上げ、それから笑った。

操縦は自動にしてあるし、目的地は俺達の故郷であるラバナスタなのだから、 焦ることはこれっぽっちもない。

僅かに湿気を含んだ風に息を吐きながら、 じっと今後について、進む道について考え始めてみる。


そして、何かを思い出した気がした。
物語の最後の一頁がやっと戻ってきたような。

けれどそれが何なのかははっきりしないまま、自然と頭に浮かんだ言葉をつぶやいた。

「…何も…。戦うのに、必死だった」
「ふーん」

返答に満足したのか、興味が無いのか、 質問した張本人であるパンネロは、横を向いて雲海を眺めている。

聞かないなら最初から訊くなよ、そんな複雑な質問。
おかげで頭ほんの少しだけ、つきりと痛いじゃんか。

びゅうびゅう耳元で鳴る風の擦れる音を聞きながら、 さっき感じた感覚を掴み直してみようとした。

そう、今みたいに、灰色の空に向かって突風の吹き荒ぶ場所と言えば――  

何処かで…?

(だけど、どこだ?そんな処、行った事なんて…)

記憶にうっすらと残る、白濁した竜巻雲の渦巻く空、
それを貫かんばかりに伸びる背丈の高い高い「塔」…。

その時、誰かが俺に話しかけた気がした。





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