多くの人たちが歌ったり、書いたり、送ったりする愛情が何なのか、 俺にはちっとも想像はつかない。

例えば、愛情は、 まるでいつも呼吸する空気みたいに自然で透明なものかもしれなくて、
でも時折ひどい痛みを持って 誰かの肌をちくちくちくりと刺すほど苦々しく辛くなってしまうし、
いくら望んだって手に入れられない、 遠い遠い、絵空事のようなほの温かい宝物であったかもしれないし、
それとも、簡単にほいほいと大勢の女の子や男の子から 手の中に入ってしまうものかもしれない。

実際気づいてみれば、 街中で誰かがいつも笑顔を浮かべたり、笑ったりしていた。
過去にずっと足を引きずられていた俺は、 その表情を見る度に自分の後ろにすっと伸びた過去の足跡を見た。

(いつか、追いつかれてしまう、
いつのまにか、俺自信が過去から抜け出さなくなっている…)

きっとそれは誰にも同じことで、 生憎答えは見つかっていないんじゃないかな、と俺は結論付けた。
何時までも続いてしまう自問自答なんて面白くもなんともないし、 頭がうんうんサイレンを鳴らしちゃうんだ。

断じて、頭が悪いからとか、頭の回転が人より遅いなんてことはない。
自信は、ないけれども。

(結局あの雨、すっぱり止んじゃったか)

行儀が悪いと怒られつつ、 俺は階段に座り込んで青空を見上げて、それから地面に視線を戻した。
何もやることがないと、ついつい脳内には くだらない日常の小さな疑問の花畑が次々に咲いてしまうので。

ターミナルから飛空挺が飛び立つ音がすると、 地面に薄っ平く残った水溜りがぶるぶると震えて面白い。

「置いてくぞ、ヴァン」
「……わっ!」
「なぁに驚いてるんだお前は」

青色の空を反射して真っ青な水溜りに差した長い人影に驚き、 ついで見上げて視界に入る白いシャツに驚いた。
僅かに湿気た道から腰を上げると、 バルフレアはにやりといつもの意地悪そうな笑みを浮かべた。


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