朝の柔らかな日差しが目蓋を赤く染める。
太陽は完全に昇りきっているようだ。
そんな時間まで寝ていたことに僅かに驚く。
まだ眠ってたいのになぁ。
強く光る赤に少しばかり不満を覚えながら起きる。
寝台の上は自分一人しかいない。

ぼんやりとした寝ぼけ頭で周囲を見渡して、 仕方がなく着替えて食堂に向かった。

「おはよう、ヴァン」
「・・・おはよ、バッシュ」

右目を擦りながらバッシュの隣の空席に座ると、 残しておいてくれたのか朝食を置いてくれる。
力の入らない手でゆっくりと手をつけていく。

「今日は一日中自由行動にするそうだ。
 あまり夜更かししてはいけないな。
 君はまだ仮にも成長期なのだから・・・」
「夜更かしなんて、してないって。
 たださ、寝心地が良すぎただけだよ」

目玉焼きを飲み込みながら反論すると、 口元についていたのか食べかすを拭かれた。

いい加減俺も子供じゃないんだけど。
随分前に言ったらそうだったなで返された。
で、また子ども扱いしてる。
そりゃ俺が頼りないからかもしれない。

だけどさ、17歳の年頃な俺にも プライドってものがあるんだよ、と言いたい。

「あのさ、バッシュ」
「・・・うん?」
「俺も一応、思春期なんだよ」
「どういう意味で、かな?」

父親が息子に向けるような笑みを向けられる。

バッシュの低い声が少しだけくすぐったくて、 肩をほんのちょと、ほんのちょっとだけ竦めた。

「子ども扱いは嫌だって意味で、なんだけど」
「すまない、君が嫌なら今度からは配慮しよう」
「いやいいんだけど。
 俺はほら、父親ってあんまり覚えてないし。
 それにあんまり構ってもらえなかったんだ・・・」

記憶の中の父親、なんてとても曖昧だった。
温かい腕や優しかったぐらいしか覚えていない。
・・・もしかしたらわざと忘れたのかもしれなかった。
そんな曖昧な物に頼るよりは、 自分の力で生きていきたかったんだろうな、俺は。

すっと肺の中に空気を入れる。
そうでもしないと昔蓋をした事がぶり返しそうだった。
バッシュが静かに俺の話を聞いていると、 何故だか安心して話せる気がする。

「だからどう反応したらいいか分からないんだよな。
 嫌とかそういうのじゃないから」
「・・・そうか。君のお父さんはきっと幸せ者だな」
「え?」

バッシュの言った意味が分からなくて考えたら、 大きくて少し硬いバッシュの手が俺の頭を撫でる。

そして優しい眼差しでバッシュが言った。

「こうして息子にちゃんと心の奥底で、 うっすらとでも覚えられているのだから」
「そうかな」
「私なら、そう思うが」
「なら、そうかもな」

何だか可笑しくて、にっこりと微笑んだ。
食べ終わった朝食を片付けて、外に出る。

眩し過ぎるほど快晴の空が広がっている。
いつか俺が舞台にする、自由な空が。


Say Me, Dady

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