揺らめいて消える、の繰り返し。
いつも記憶はそこで途切れる。

まだ母が生きていたころ。
あの時はまだ幼くて、何もかもが 広大な世界に思えてた。
初夏の日差しが眩しい位に地面を照らし、 母さんは日傘を差して俺の手を引く。
どうして出かけたのかは覚えてない。

活気付いたバザーを抜けると、 そこは母さんの好きな小道だった。
観葉植物が鮮やかに咲き誇る道。
涼しい、と柔らかな声が言う。

スコールが降るちょっと前に母さんは言う。

「雨の匂いがするわね」
「あめの、におい?」

ジメジメしているでしょう?とはにかんだ。
日陰にいればもっと分かるの。


昔は嫌いだった賛美歌を口ずさみながら、 墓石の前に俺は花を添えた。
大した墓じゃないけれど、 ここに母さんや父さんが眠っている。

・・・そして兄さんも。

「母さんは百合が好きだったんだ」
「そうか」

ガルバナと白い百合が風に揺れる。
後ろに立っていたバッシュがもう一本、 珍しい青いガルバナを置いた。

突然降りだした雨に母さんは微笑む。

ほら、言った通りになった。

持っていた雨傘を広げ、手を繋ぐ。
家までの帰り道をゆっくりと歩く途中、 母さんはもう一つだけ教えてくれた。

「バッシュ、」

終わらない雨なんて存在しない、と。

『だから笑みを忘れては駄目よ。
私達に残された幸せになれる方法をね』

その翌年母さんは病で逝った。
白い百合と同じくらい真っ白な顔で。

「・・・辛いなら、思いきり泣けばいいんだよ」
「ごめん」

バッシュが気遣うように抱きしめて、 痛くない程度に肩を叩いてくれた。
喉元が酷く痛んで目蓋が熱い。
そう思ったら嗚咽が止まらなかった。
冷たいバッシュの手が頬に触れた。
熱い頬や頭をゆっくりと撫でられる。

はっとして見上げれば、 慰めるように口付けられた。

「バッシュ、」
「私は君に笑っていてほしいんだ。
 辛いことがあるなら、泣いたほうがいい」
「分かってる、そんなこと。
 でも・・・ありがとう」

いつの間にか、眠りについていた。
母さんが隣で子守唄を歌い、 その後ろで兄さんが日記をつけている。
見当たらない父さんは仕事に。


あの日はもう戻らない。
俺達は過去よりも未来を見て生きていく。
惨劇が起こった場所には花が咲き乱れ、 ダルマスカが蘇るように。

過去は少しずつ忘れられていくけれど、 それでも二年前は傷跡として残る。
癒えなかった傷跡が塞がれていくのは きっとこの戦いが終わってからだと思う。


俺は絶壁に建つ絶海の塔を見て、 生きてラバナスタに帰ると再び決意した。


Rain, Forever

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