カシャン、カシャン。

鎧特有の音を響かせて歩いてくる。
漆黒の宵闇に紛れた姿に重なるその懐かしい姿。

まさかとは思ったけれど、本当に、
本当にジャッジ・マスターになってたんだ。

そっと重たそうな兜を持ち上げて取り外した。
冷たい鎧が腕に当たって気持ちいい。
鎧の下から現れたバッシュは、 どんな表情をしたらいいか困っているように見えた。

「バッシュ」

整えられた髪に、傷の残る眉間に、頬に、触れる。
でもちゃんと俺の知っているバッシュだと分かった。
色々な出来事が過ぎて、やつれている頬が温かい。


「…バッシュ」

大好きだった優しい目が伏せられる。
労わるための言葉が見つからないまま、 やさしくキスを唇にした。

バッシュ、バッシュ、バッシュ。

しばらくの間、名前を呼んでキスをしていた。

「私は疲れたよ、ヴァン」

頼りない声が弱音をぽつりと呟いた。

項垂れている頭を胸に抱えて、 その眉間に唇を押し当てた。
いつもみたいに甘えてこないことが 途方もなく寂しい気持ちにさせる。

ああ、バッシュの懺悔と怯えを拭えればいいのに。


言ってあげられる言葉が見つからなくて、 普段じゃ言わない言葉を言った。

「愛してるよ、バッシュ」

ああ、本当に頼りたいのは俺のほうなのに。
そんな顔をされたらどうしようもなくなる。

見た事のない、とてもとても悲しい顔。
陰影を表す、寂しい寂しい哀しみの顔。

どうやったらその悲しみは消えるんだろう。
俺にはちっとも思いつかないんだ。

「バッシュ」

今夜はずっと一緒にいてあげるから、 ただ今は俺にキスをしてほしい。
それから最近起こった面白い出来事を教えて。
その悲しみを拭えるなら命を対価にしてもいいから。


ねえ、

バッシュ。


Kiss Me In Public

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