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手に持っている銃は、昔のタイプと同じように片手に持ってもずっしり重いわけでもない。
撃つのに適度な重さと質感、少ない反動で撃てる最新型の銃を眺めながら撃つ動作をする。
手馴れたものだから、この感覚が少し好きだった。
ああでも、そんなことを言ったらファムランは少し悲しい目をするんだろうか。
「…俺は本当にあなたの望んだ俺なのかな」
任務の為ならば誰でもこの形式の銃が配布され、恐らくは
これで多くの組織の構成員は 「任務を達成する為に邪魔なもの」を排除してきた。
もちろん、一人に対して一個だけ支給されるから、 誰かのおさがりだったなんてことは一切無い。
正真正銘、自分が今まで戦ってきた傷跡の証拠品だった。
『俺達は他人の命を奪って生きることを望まれる、
命を奪う瞬間だけは、躊躇も半端な気持ちも、
一切挟むことは許されない。』
それが、初めて血生臭い戦いに行く時にファムランから言われた言葉だった。
あの時はまだ、ファムランのことは「バルフレア」と呼んでいた。
それくらい前のことだった。
当時の俺は、それなりに心構えもしていたつもりだったのに。
それも、さあこれからだ、と意気込んで任務に出発しようと
俺がファムランに 挨拶をしにいった時だった。
本当に開始前の僅かな空き時間に言われたことだった。
出口でばったり会ったから、俺はドアから少し外に出たところにいて、
ファムランは空調機の効いた室内でぼんやりとこちらを見てきたのを覚えている。
季節は初夏で、外の日差しがあまりにも眩しいものだから、 明るいはずの室内はむしろ少し暗く思えた。
「…それくらい、俺だって分かってる」
「俺にはまるで、お前が躊躇ってるように見えたが」
「俺が、何を?」
「いや…、気のせいだ。悪いな」
それから言うこともなくなったのか、ファムランは俺を追いやるように右手を振った。
あの時、俺はとっくに感情を覆い隠す方法を身に着けていたことを彼は知らなかった。
厳重に感情の波を抑えつけていた筈なのに、
一瞬で見抜かれたことに、俺はひどく複雑な気分を抱いた。
そうだ、俺はこんなことで迷ってる暇なんかない。
どうして、忘れていたんだろうか…。
その任務から帰ってきて暫くして、俺は「バルフレア」のことを「ファムラン」と呼ぶようになった。
いつもみたいに感情を前面に出すことを抑えることを覚えて、
そして、相手に悟られないような喋り方に変えた。
まるで、名前だけが同じである、全くの別人になってしまったように。
俺なりの覚悟を決めただけだった。
捨てた理由は、本当に、それだけだった。
それなのに、今でも俺には聞こえているのだから、少しばかり驚いた。
七年前に置いてきたとばかり思っていた、
俺が捨てたものが俺を呼ぶのが、俺にはまだ、聞こえている。
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#7 それは、前に進む為の、小さな犠牲だった
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