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七年前から今までという長いような短いような時の流れの中で、
俺達における一番の変化は、俺達のお互いに対する態度なのかもしれない。
正確に言えば、俺達のお互いに向ける感情の変化だ。
ヴァンの俺に対する呼び方が「バルフレア」から「ファムラン」に変わったのは何時だったか、あまり覚えていない。
そういえば、俺がヴァンに対して昔よりもより近い目線で接するようになったのは、
呼び方が変わった時とほとんど同時期だった気がする。
その頃から俺達はお互いを今までよりももっと近い場所で見てきた。
その代わりに、俺やヴァンが失ったものも多い。
例えば、ヴァンの性格が分かり易いのは変わらなくとも、
笑い方がどこか諦めたような、寂しげなものに変わった。
立場上、俺に合わせることが多くなると同時に、
俺のためにあいつは「大切な何か」を捨てる覚悟をした。
そして恐らく、それは俺にも言えることなのかもしれない。
日常ではあまりに些細で見落としてしまうような、
何か重要な意味を持った物が七年の間に抜け落ちた。
取り戻すには時間も余裕もなく、気付けば、
一体何時落としたのかでさえはっきりとしなくなってしまった。
混沌とした思考を止めて、ゆっくりと剣を仕舞う。
返り血を気にせず次々と敵を屠っていた為、
今まで立っていた地面の周囲が死体から流れ出した血で赤黒くなっていた。
腐臭を感じる前に潮風を感じ、そこでようやく夕暮れ時だと気付く。
海が近い。
「また考え事か?」
ヴァンはいつも通りの薄い笑みを浮かべ、剣についた返り血を布で拭き取った。
死体から流れ出した血液の量が想像以上に多かったからか、僅かに顔を顰めた。
「血生臭い…」
「きついか?」
「いや、大丈夫だ。久しぶりすぎて慣れないだけだから」
ヴァンはそう言うと、右手に握る剣を見て、「あんたは良いよなあ」と苦笑した。
「俺のおかげで、好きなことできて」
「お前もすれば良い話だろ」
「俺は好きなことって言えるほどしたい事がないんだ」
七年前と同じ質問に返ってきたのは、七年前からヴァンが何度でも繰り返した同じ台詞だった。
ふと、空を見上げ、ゆっくりと目を閉じた。
全てが終わったら、俺達は本当に戻れるのだろうか。
俺達が変わる前にいたのと同じ場所で、同じような態度で接することができるのだろうか。
何もかも分からないまま、全てがクライマックスに向かおうとしているような気がする。
「ファムラン?」
空を見上げる俺に、ヴァンが一瞬不思議そうな声をかけた。
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#6 もう一度やり直してみるしかない
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