自分たちが請け負うのは常に命の危険が伴う仕事だったように思う。
常人の手に負えぬものだからこそ、通常の人間よりも遥かに生と死の境界線の薄い自分達が呼ばれるのだ。
俺は常々、自分達は誰よりも生と死の狭間に突っ立っている人間だと思っていた。

「俺が死んだらお前はどうする」

だからこそ、目前で目を閉じ腕を組んで黙りこくっていた男が出した質問に疑問を感じた。
それこそ今更じゃないか、と言って、その時自分は如何するか、それを少し考えた。

「俺より生きるあんたが死んだなら、俺はもうとっくに死んでるだろうな」
「俺が死んでも死にそうにないお前がか?」
「いいや、俺の場合は死ぬ。
 生命線が他人の、あんたの命に乗っかってんだよ」

俺の最後の夢が悪夢に変わらない限り、この男は死なない。
バルフレアが死ぬ、ということは、俺に残された希望と最後の逆転の可能性が途絶えることを意味する。

「俺があんたを殺したら話は別だけど」
「…勘弁してくれ、お前にだけは殺されたくない」
「なら俺を看取るのはバルフレアだろ」

いつかくる未来で俺が迎える死のイメージに、「看取る」という言葉は似合わない気がした。
どうせろくでもない死に方しかないだろうと思った。
ベッドの上で死ぬにせよ、バルフレアが俺を看取るのは有り得ないことだからだ。

この男にはそんな生易しい送り方じゃなく、あっさりとした後ろ髪の引かれない綺麗な最後しか似合わない。
そして彼自身が死ぬ時も、やはり静かな死に際だけが訪れるに違いない。

「その話は、もういいよ。
 殺すだとか死ぬだとか、そんなのは現実だけで充分だ。
 言葉でやりとりする中にはいらない」

そこまで考えて、七年前の惨劇が思い浮かぶようでうんざりした。
俺はいったい、こんな世界でこんなくだらない日常の中で、果たして何をしているんだ。

「…俺はお前がそう言うだろう、と分かってて言ったのさ。  悪かったな、ヴァン」

苦笑を浮かべたバルフレアは俺の肩を軽く叩き、それから部屋を出て行った。
結局何がしたかったのか聞けなかったことに気付き、俺は椅子から立ち上がってバルフレアの後を追った。


#5 その話は、もういいよ

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