俺は、自分のことに対して執着してこなかった。
それ故に適度に手を抜いて、まあそれでいいか、と妥協することが少なくない。
今まではそれで十分に対応できていた。

それが、とんだお荷物がくっついた所為で、自分のことだけ考えていれば良い、なんて事にはならなくなった。

ヴァンは身体能力からして凡人を一、二回り上回る位の実力しか持たない。
魔力も、精神能力の適応性も、やはりそれ位しか素質がなかった。
明らかに俺とヴァンとでは、組み合わせとしては最悪のパターンだった。

だが、あいつは、誰もが挫折するであろう訓練を必死に乗り越え踏み越え、俺の力に合わせられるようにありとあらゆる手段を尽くした。そこまでしなくてもいい、と何回もヴァンに伝えたことがあるが、その度、「全部俺のためになるから」と誤魔化された。

あの日から、ヴァンは満面の笑みを滅多に浮かべなくなり、代わりに今はもうよく見慣れた、あの薄い笑みを浮かべるようになった。
俺もまた、あまり人と口をきかなくなって久しい。
そういった変化が、俺達の中からあの頃や、昔、後悔といった後ろ髪を引かれる何かが消え去っていく証拠のように思えた。

俺は俺で、自分自身に手一杯だった。
あのままではとてもじゃないが今の世界で、ヴァンを引き連れて生きていくのは難しかったからだ。
何度も脳裏をあの忌々しい災厄が横切り、その度、俺は今度こそ何もかも失うんじゃないかと不安になった。

「一緒に此処まで来たのは俺の為じゃない」
「じゃあ誰の為だ」
「あんたの為だよ」

躊躇を見せずに言いきったヴァンを横目で見て、俺は安堵のため息をついた。
こんな俺と一緒に来てくれたのがお前でよかった。
お前がいなかったら、一体俺はどうしていたのか、今となってはもう想像もつかない。

そんなことを考えているのを知ってか知らずか、ヴァンは薄く笑みを浮かべ、俺が向いている方向と同じ方向へ顔を向けた。


#2 お前がいなかったらどうなっていただろう

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