どうやら自身が発見された場所は生きているのが不思議な状況だったらしく、 目覚めた自分を待っていたのは全身を駆け巡る痛みと喉の掠れた感覚だった。
壮絶な痛みに思わず叫び声をあげて、駆けつけた青年は思わず耳を塞いでいた。
鎮静剤を腕に打たれて暫くして、バルフレアが病室のドアに現れ、蒼白な顔でこちらを見ていた。
それが、自分にとっては始まりの日だった。

普通の人間よりも一回り強いだけでは生き残れないと悟ったあの時から、死に物狂いで何が何でも強くあろうと訓練を受け続けた。
身体が痛み、苦しい時は、自分はどうあっても生きなくてはならないのだということを噛み締め、再度もがいた。
そうやって七年が過ぎていった。

七年経って、あともう直ぐでやっと終止符が打てる、と言う所で、唐突に「もうやめたらどうだ」と静かな声がした。
今まで一緒に行動する時間の多かった分、彼が何を言いたいのかはよく分かった。
その役目を終えたらどうだ、と彼はもう一度言い直した。

「…幾ら古い馴染みとは言え、ここまで付き合うことはないだろうが」
「それこそ今更じゃないか」
「今更ついでに聞くが、この件でのお前の得は何だ?」

その言葉を聞いて、俺は一体何の為にここまで彼についていったのだろうと考え直した。
たとえ不運な事故に遭い、全てを失ったとしても、普通の人生を歩むことも出来たはずだった。
それなのに、敢えて一番死ぬよりも辛い思いをしてでも、奈落の果てまで追ってやろうと躍起になったのは何故だったんだろう。

思考を巡らして、少し目を伏せてから俺はやっと結論に辿り着いた。
極めて単純な理由だった。

「一緒に此処まで来たのは俺の為じゃない」
「じゃあ誰の為だ」
「あんたの為だよ」

いや、もしかしたら、あんたの為と願った自分の為かもしれなかった。
バルフレアは目を見開き、何事かを言いかけて口を閉ざし、「そうか」とだけ答えた。


#1 俺の為じゃない、あんたの為だ

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