前々から気に入らない奴だと思っていた。
殺してやりたいと思ったのも一度や二度じゃない。
彼が家族を失ったことに対して同情も哀れみも浮かばなかったのは当然だろう。

だからこそ、エツィオ・アウディトーレが手に剣を持って現れた時はどれほど嬉しかったことか。
これでようやく殺せることに対する安堵と、何時になく鋭く突き刺さる殺気への戦慄。

「俺はこの時をずっと待ってたんだぜ…」

向こうもそれは同じだったようで、
傍にいた兵士の一人を一瞬で切り捨てるとこちらへ刃を向けた。
後ろからもう一人の兵士が切りかかろうとして、ざっくりと返り討ちにされてしまった。
死体から剣を抜こうとする一瞬の隙を見て、手に持った剣を振った。
月光を反射する刃がその喉を切り裂く前にそれは受け流され、代わりに激痛が襲う。

体を貫いた刃の痛みと熱さに驚いたのも束の間、フードから覗いた目を見て息を呑んだ。
幾度も対峙してきたが、これほど怒りや憎しみといった暗い感情に燃えた目は初めてだった。

これこそが、
愛する家族や友人のことを悪く言うのを許さなかった男の、本性とも言うべき姿だ。
憎らしい存在の本性を見れたのは恐らく自分だけではないかと一瞬思ったが、痛みで思考は散り散りになっていく。

見たことも無い白い衣装が月明かりにぼんやりと輪郭だけ浮かび上がり、目をぎらぎらとさせる男はまるで、 こちらを殺そうとその手の刃を振りかざす大天使を思わせた。

それにしたって可愛くない天使だ。
馬鹿馬鹿しい考えを抱いたまま、意識を手放した。

死を運ぶミカエル

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