■ ■
気分を変える為の散歩の後、偶然通りかかった道に人だかりが出来ていた。
やんやと人々が声をかける様子からして乱闘か何かだろうと予想はついたが、気になって少し近づいて覗き込む。
そうして、誰よりも大切な彼が戦っている場面に遭遇した。
「エ、」
口元まで出かかった言葉を手で押し止め、無理やり飲み込んだ。彼の名前をここで出せば自分も危ない。
(エツィオ…!)
自分の工房に来る時はいつも落ち着いた様子で足を踏み入れるその体が、今は敵の攻撃を防ぎながら躍動している。
全く隙を見せない動きを見つめながら、息も、瞬きさえも惜しいと感じた。
一歩間違えば命を落とす状況だというのに、彼の動きは、なんて美しいのだろう。
すぐにこの場から走り出して、記憶が新鮮な内にその流れをメモに書き写してしまいたい衝動に駆られた。
しかし、
(彼が無事か心配で、気がどうにかなってしまう)
友であり、そして彼を愛する者として、彼を見捨ててこの場を去ることはできなかった。
見つめる先では兵士の一人が、男に躊躇い無く繰り出される一撃で地に沈んだ。
外野にいた人々もさすがに死人が出ると動揺し、中にはあまりの恐怖に逃げ出してしまう者もいた。
けれど、どうしてもその場から離れることだけは、できなかった。
血飛沫が端正な顔に僅かにかかり、目元を顰めた彼の顔は、今まで自分が見た事のないものだった。
生死をかけて戦うのだから仕方ないのかもしれないが、凶暴で、野生的で、まるで別人のように見える。
ふと、兵士の剣を避けた後、その目がこちらに向けられる。
その一瞬、エツィオは子供をあやすように微笑んだ。
「離れてろ、レオナルド」
フードから覗く目はいつもと同じように凪いで、 剣を受け止めながら彼は唇だけでそう言った。
■
艶やかな余所見
|