アサシンとして生きる、ということは、歴史の表舞台に姿を現してはいけないことを意味する。
つまり、自分が生きていた証拠を残してはいけないのだ。
僅かでも彼らを証明する物があれば、敵に彼らの存在が知られてしまう。
だからアサシン達は無闇に目立とうとはせず、息を潜めて歴史の闇で生きてきた。

技術方面で協力しているとはいえ、所詮自分は部外者でしかないとは分かっている。
彼らがどのように戦い、どんな想いで時代の暗部を見つめてきたかなど、想像するしかない。
自分がこの世に存在してい無いというのは、一体どんな気持ちになるのだろう…

「…レオナルド?」

エツィオの静かな呼びかけにはっとして顔を上げる。
そういえばいつも通り写本の解読をした後、無理を言って彼の素描をしていたのだった。
僅かに手元がずれたのを見て、琥珀色の目が少し細められる。

「気になることでもあったのか?」
「ああ、いえ…なんでもありませんよ。大したことでは…」

戦いの渦中に身を置いているエツィオに余計な心配はかけたくない。
そう思って誤魔化そうとしたが、敏い彼にはお見通しのようで、そっと諌められた。

「君とは長い付き合いなんだ、隠し事はしないでくれ」
「エツィオ…。そうですね、実は…貴方の絵を描いてもいいかどうか、不安で」
「どうして?」
「絵に描く事で、あなたがいるという証拠を残してしまうでしょう? アサシンならば、自分がいたという証拠が残っていてはまずいのではないかと思いまして」

エツィオはそれを聞いて少し目を見開き、「考えもしなかったな」と呟いた。

「なあ、レオナルド。ならどうして君は俺を描きたいんだ? 書き残してはいけないとしても、止められるのか?」
「それ、は…」

あまりに唐突な質問で言葉が出ない。
椅子から立ち上がった彼が、答えを誘導するように頬をそっと撫ぜてくる。
どうして自分は彼を描きたいのだろう。考えたことも無かった。

「貴方が綺麗で、そして愛しいからだと、」
「それなら止めなくていいよ、レオナルド」

それに、
一瞬だけ伏せられた目が再びこちらを向いた。

「君の絵と君自身が、俺の証拠になるなんて、素敵だと思わないか?」

Cast no dirt in the well that gives you water.
立つ鳥後を濁さず

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