各地に散らばった写本の断片を集めていたエツィオだが、一旦ヴィラに戻ってきていた。
一つはヴィラに寄っているレオナルドに翻訳をしてもらう為。
もう一つは、疲れを見せ始めた体を癒す為だった。


「エツィオ、これはなんです?」
「ああ、それは俺のご先祖…アルタイルが作ったとされる鎧だよ」

答えながら、エツィオは空いていた小さな机の上に写本の断片の山を置いた。
レオナルドはというと、黒いフードのついた肩当や鎧等の一式をじっくりと覗き込んでいる。
未知な構造を持ったそれに興味を持ったようで、エツィオは肩を小さく竦めた。
こうなった親友は何を言っても聞かないのを昔からよく知っているからだ。

(紅茶でも用意してやるかな)

鎧を熱心に調べながらぶつぶつと呟く後姿を振り返ると、用意をする為にその場を離れた。



暫くして再びレオナルドのいた部屋に戻ったエツィオは思わず目を瞬いた。
あれ程山積みになっていた写本は、半分が翻訳されて隅に寄せられている。
更に翻訳とは関係のないスケッチが何枚か散らばっているのが見えた。

「…レオナルド…」

描いた画家はというと、脇目も振らずにひたすら何かを書き綴っては手を止めて考え込んでいる。
熱中しているのを邪魔するのが憚れて、エツィオは近くの椅子に座ってその様子を眺めることにした。
ペン先が紙の上を滑る音が数分続いた後に、ようやくレオナルドは顔を上げた。

「すみませんエツィオ!熱中してしまって」
「別に構わないさ。いつものことだからな。それより何を描いてたんだ?」
「ああ、これですか?新しい衣装のデザインですよ」

言いながら、レオナルドはスケッチを数枚手にとって見せた。
その内の一枚の左上には小さな鷹が描いてあり、横に様々な衣装が何種類も描かれている。
相変わらずの素晴らしい腕前に感心しながら、ふと、疑問が浮かんだ。

「衣装って誰の?」
「もちろんあなたの衣装ですよ、エツィオ!新しい鎧には新しい衣装が必要ですからね」
「…アルタイルの鎧か」

すっかり忘れていたが、後世へと託された鎧には黒いフードがついている。
緊急時にだけ使おうと思っていたので気にもしなかったが、
今の全体的に白色を使った衣装では、黒いフードが目立ってしまうのは容易に想像できた。
かといって、今の服装以外に頑丈で機能的な服があるわけもなく。
何かと助けてくれる親友は、どうもそのことを心配してくれたらしい。

「黒いフードですから、全体的に黒でまとめるのが一番美しく見えると思うんですが…。 黒だけでは物足りないんです。僅かに鮮やかな色を入れればきっと…」

スケッチの数枚へと目を走らせていると、レオナルドが再び自分の世界へと入りかけようとしていた。

「レオナルド、そんなに真剣に考えなくても良いじゃないか。誰も気にしないんだから」
「そんな!駄目ですよ!勿体ない!」
「勿体ないって…」

何かを言おうと思って口を開きかけて、好きにさせてやろうと思い直す。
この親友には何かと自分の武器を直してもらっているし、武器以外の物も任せても問題はないだろう。
それに、レオナルドが衣装をどんな風に仕上げるのかが気になった。

「わかったよ、レオナルド。全部任せるよ」

肩を軽く竦めて降参の意を示すと、親友は得意げににっこりと微笑んだ。

の発案

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